第20話 シフターズと宝船

 「……あ痛っ! ちょ、お前ら分離してくれ!」


 笑い猫とブレーメンを撃破した朝、四肢の痛みで太郎は目覚めた。


 いる場所は、牛車の中の自分の個室。

 皆、服は着てるからやましい事は何もなかった!


 「……う~っ、太郎様~♪ 我が愛しの君、アカネは永遠に離れませぬ~っ♪」


 アカネが太郎の右腕に抱き着いて寝ており、しっかり極められ腕ひしぎ状態になっていた。


 「ご主人様の左足は私の縄張り~♪ すりすり♪ くぅ~ん♪ くぅ~ん♪」


 チグサの口から漏れる寝言は彼女の中のシロの物か、はたまた双方か?

 

 チグサも太郎の左足に、手足と尻尾を絡みついてすやすやと寝息を立てていた。


 「うきき~♪ 大将との私の子猿が一匹~♪ 二匹~♪ 三万匹~♪」


 子猿の数が一気に増えすぎな寝言を言うウコンは、太郎の左腕を抱き枕に涎を垂らしてだらしない笑顔で寝ていた。


 「ボスの右足は、良い臭い~♪ ず~っと、キジーの止まり木だよ~♪」


 キジーは勿論、太郎の右足に抱き着きとまるでダイシフターの合体位置と同じ部位を太郎は仲間達に抱き枕代わりにされていた。


 「……頼む、お前ら起きて俺の手足を解放してくれ~っ!」


 太郎は起きたかったが、仲間から解放されるまで数刻を要した。


 「私、オーガなので太郎様の所有物と判定されたようです♪」


 アカネが微笑みながら、牛車内の居間で太郎の茶碗に飯を山盛りで盛り付ける。


 「ウッキッキ~♪ アカネ先輩なら行けると、私の思い付きが大成功ですよ♪」


 ウコンがドヤ顔をして、黄色い大根の漬物をバリバリと食らう。

 

 何気に彼女は大妖魔、各種妖術はお手の物と来ていた。


 「そこに私達も付いて行くと、あら不思議♪ 皆で一緒に入れました~♪」


 チグサもいたずらっぽい笑みを浮かべる。


 「えへへ~♪ ボスのお部屋で、約束通り皆でお休みだったよ~♪」


 キジーが元気に鶏の卵を割り、白飯に掛ける。


 「まあ、あんた達はお疲れ様♪ 私らの舞台での出番は今夜だよ♪」


 お園さんも、白飯に焼き魚にみそ汁に野菜の煮物にと朝飯を食べる。


 「まあ、約束した事だから問題ないな♪ じゃあ、飯の後は舞台の稽古だ♪」


 太郎は皆と一緒に寝ると、約束をしていた事を思い出して自分を納得させた。


 「しかしこうして皆がいて飯が美味い、運が良い♪」


 太郎がモリモリと朝飯を平らげて呟く。


 「そう言えば、太郎様はよく運が良いとおっしゃられますね?」


 アカネがふと疑問に思った事を呟く。


 「わかりますよ~♪ そいつは、運を呼び込む呪術ですね♪」


 ウコンがドヤ顔で言い切る。


 「え~? 運が良い事は、良い事だよね~?」


 キジーは良くわかっていなかった。


 「私は、そう言うおまじないみたいなのはわかります♪」


 チグサが皆にお茶を出しながら微笑む。


 「ああ、ウコンやチグサの言う通りだし死んだ母さんから受け継いだ言葉だ♪」


 太郎が笑顔で答える。


 「素晴らしいお言葉ですね、生きている時にお会いしたかったです」


 アカネが太郎に優しく微笑む。


 「まったくですよ、地球に行った時は盛大にお墓参りしますよ♪」


 ウコンが場を盛り上げようとする。


 「その時はキジーが盛大に花火を上げるよ♪」


 キジーも明るい事を言う。


 「お義父様にもご挨拶ですね♪」


 チグサが微笑む。


 「坊やは本当に運が良いねえ♪ ところで、坊やの親父さんは良い男かい?」


 お園さんは太郎の父親に興味を持つ。


 「はい、俺も運が良いと思いますし父さんは良い男だと思います」


 太郎がお園さんに答える。


 「そいつは運が良い♪ 私も元気が出て来たよ♪」


 お園さんが腹を叩いて笑う、太郎は何故かはわからないがお園さんの仕草に亡き母の面影を見た。


 そして、太郎達が舞台を借りて朝食後の稽古をしている時に煙と共にヤチヨがオーガ達を引き連れて現れた。


 「ば、祖母ちゃん?」


 「は? 父上、それに村の者達ですか?」


 太郎が驚く、そしてアカネも驚いていた。


 「はい、お祖母ちゃんでっす♪ 太郎ちゃんの大舞台は見逃せません♪」


 「俺達は、敵役と端役だよエキストラってんだっけ?」


 ベニマルさんが言い出した。


 「大丈夫、しっかり稽古は付けたから安心してこき使って良し♪」


 「祖母ちゃん、ベニマルさんは俺にとって一応義理のお父さん何だけど?」


 「な、何と優しい婿殿だ♪ 気にするな、娘夫婦の晴れ舞台をしっかり飾るぜ♪」


 「お、お久しぶりですイチヨでございます~!」


 ベニマルがサムズアップし、イチヨが太郎に平伏する。


 「ヘイ♪ キジーだよ、宜しくイチヨ♪」


 それまでイチヨ役を演じていたキジーが、本人と邂逅した。


 「よ、宜しくお願いいたします~!」


 「イチヨ、スタンダップ♪ 今日から、キジー達は友達だよ♪」


 イチヨはキジ―にも平伏したが、起こされてなんやかんやで友情を築いた。


 そうして、オーガ達のエキストラを加えての通し稽古。


 先代の変身勇者でもあったベニマルに、怪人役を任せての本番となった。


 「行くぞ皆、大成敗!」


 「ぐわ~~~っ! 見事なり、ダイシフターッ!」


 精巧なダイシフターの着ぐるみに太郎が入り、仲間達はアテレコ。


 ベニマルが演じるオリジナルの悪役の散り際は迫真の演技であった。


 「「ブレイブ♪ ブレイブ♪ シフターズ♪」」


 ブレイブシフターズが掛け声を上げれば、客席からもレスポンスが上がる。


 「かくして、悪を退治したブレイブシフターズは旅立つのでありました♪」


 最後はお園さんの講釈で終幕、舞台は大いに盛り上がったのであった。


 「皆、お疲れ様♪ 芸能祭りでの公演、無事に終了だ~♪」


 牛車の中で太郎が皆に告げる、仲間達もその言葉に拍手する。


 「いや~♪ 戦いも舞台も大変だったねえ♪」


 お園さんが微笑む、そこそこの稼ぎにはなったようで太郎と仲間達全員にぽち袋が手渡された。


 ベニマル達エキストラにも報酬が支払われ、彼らはヤチヨによって村へと連れて帰られた。


 「おお♪ 金貨五枚とは、有り難いですな♪」


 アカネが中身を見て喜ぶ。


 「いやあ、儲かりましたね大将♪」


 ウコンも今回の儲けの多さに驚き喜ぶ。


 「もしかして、お祭りの舞台に被害がなかったからですか?」


 チグサが儲けが多い理由についてお園さんに尋ねてみた。


 「そうそう、戦いで街や舞台が壊れたりしなかったからねえ♪」


 お園が豪快に笑うが太郎達は苦笑い。


 「でも儲かったのは良い事だよ♪ 大事に使おうね、皆♪」


 キジーが大喜びしつつ、無駄遣いをしないように注意喚起する。


 「そうだな、じゃあまずは金貨一枚を奉納しますっと♪」


 太郎が叫ぶと、空中にお賽銭箱が出現し皆から小判状の金貨が一枚ずつお賽銭箱に吸い取られて行った。


 「無事に家賃も支払い終えたねえ、安全に旅ができるのもヤチヨ様のお陰だよ♪」


 お園が安堵する、戦隊一行が利用するこの牛車の大家はヤチヨ。


 太郎達は仕事で報酬を得る度に、こうしてヤチヨに家賃を納めていた。


 「次は、戦隊皆の貯金ですね♪ これも皆で一枚ずつで♪」


 アカネが金棒を取り出す。


 「ですねえ、戦隊の資金は一家の資金♪」


 ウコンも熊手を取り出す。


 「ファミリー皆の為の資金だよ♪」


 キジーも銃を出す。


 「いざ使う時の為にコツコツ貯蓄♪」


 チグサも苦無を出して、仲間達と突き合わせる。


 「よし、千両箱召喚♪」


 最後に太郎が軍配を仲間達と突き合わせる。


 全員のシフトチェンジャーを突き合わせて太郎が叫ぶ事で、パーティー資金を

貯金する千両箱が虚空から召喚された。


 そして、千両箱に戦隊全員のポチ袋から金貨が一枚ずつ千両箱へと吸収され終わると千両箱が再び虚空へと消える。


 最後に残った金貨は、それぞれのシフトチェンジャーに光となって吸収された。


 「変身したり武器になったり財布になったりと、便利な神器だねえ?」


 お園さんは神の技術に感心しつつ、打ち上げ食事の用意を始めた。


 そんな時に、牛車の中に光が生まれると同時に一人の眼鏡をかけた黒髪の美女が青い鱗模様の着物姿で現れた。


 「でゅふふふ~♪ ブレイブシフターズの皆様~♪ 此度の皆様の戦いと舞台、しかと堪能させていただきましたぞ~♪」


 開口一番、トヨがでゅふふと笑いだす。


 「トヨさん、ありがとうございます♪」


 舞台の主であり主賓であるトヨに、きちんと頭を下げて礼を言う太郎。


 仲間達も、きちんと居住まいを正して礼をする。


 「でゅふふふ~♪ 皆さんのおかげで、今年はダイナミックなお祭りを単横出来ました~♪ 流石は太郎きゅん♪」


 トヨが太郎の手を握る、仲間達はスポンサーのする事だからと我慢した。


 「いや、皆のお陰ですからね? 本当に!」


 距離感が近いトヨに困惑する太郎、トヨは太郎から離れるとオタクモードから女神モードに変わった。


 「推しの成分を接種させていただいた所で、皆さんに贈り物があります♪」


 トヨが叫ぶと、牛車が移動を始めた。


 牛車が止まり、太郎達が降りてみると場所は海岸。


 そして、浜辺には巨大な桃色の船が停泊していた。


 「はい、皆さ~ん♪ ご覧下さい~♪ あれが私からの贈り物、宝船でっす♪」


 トヨが真紅の船を腕で指して叫ぶ。


 その桃色の巨大な宝船は、巨大な桃が二つに割れたような形で船の中心に巨大な宝の字が描かれた帆と武家屋敷のような形の艦橋が備わった異形の安宅船であった。


 「凄い、大きい桃のお船ですね♪」


 チグサが宝船を見て感動した。


 「ヒャッハ~ッ♪ キジー達に船が手に入ったよ♪」


 キジーが大はしゃぎする。


 「な、何と言うか我々らしい船ですねえ?」


 ウコンは唖然とした。


 「おお、何と立派な船でしょう♪」


 アカネは感動していた。オーガのセンス的には素晴らしい物らしい。


 「ああ、ありがとうトヨさん♪ しっかり活用させてもらうぜ♪」


 太郎も感動してトヨに礼を言う。


 「でゅふふふ~♪ 私達が使っていた船を改装した、お下がりですけどね♪」


 トヨが照れた。


 「そうかあ、祖父ちゃん達が使っていたなら安心だぜ♪」


 太郎がトヨタの言葉に安心する。


 「でゅふふ♪ この万能宝船は牛車も積めますし、海だけでなく空に宇宙に異次元も航行できますぞ♪」


 トヨがスペックを語ると、万能宝船の船首が開いた。


 「何とも、凄い船をいただきましたな♪」


 アカネが呟く。


 「およ? 異次元と言う事は、地球にも行けるのでは?」


 ウコンがトヨの言葉に閃く。


 「流石ですなウコン殿~♪ 勿論、行けますぞ♪」


 「ぎゃあっ! 距離が近い、鼻息が熱いっ!」


 ウコンがトヨに接近されて迷惑がる。


 「じゃあ、これで里帰りもできますねご主人様♪」


 チグサが太郎に微笑む。


 「そうだな、ブラックテイルを倒したら皆で地球に里帰りするぞ~♪」


 太郎が叫ぶと、お園さんとトヨも含めた全員が応と叫んだのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る