第17話 浴衣と祭りとシフターズ
「ここが海岸舞台、凄い!」
太郎が、海側が観客席となっている屋根なしの巨大な円形劇場に目を見張る。
「トヨ殿に芸能を奉納する為の舞台ですか」
アカネがお園亭で出会った、でゅふふと笑う女神トヨを思い出す。
「トヨさんって、凄い神様何ですね♪」
海岸舞台そのものがトヨの神殿であると聞き、感動するチグサ。
「これはもしや、ダイシフターを出しても行ける広さですよ♪」
ウコンが舞台の広さを見て、ダイシフターを出せると目算を付けた。
「ド派手なお芝居をしようね、ボス♪」
キジ―が太郎に微笑む。
「ああ、こいつは運が良い♪ 皆で俺達もお客様も、楽しい舞台にして行こう♪」
太郎が気合を入れた。
「私達も本当に良い時に来れたねえ、祭りで芸人は幾らでも出て欲しいとさ♪」
劇場側と話を付けて来たお園さんが語る。
「こいつはあの神様の思し召しだろうな、俺達の芝居は祖母ちゃん達も見に来そうだし頑張るぜ♪」
太郎は自分達がこの街に来たのは、トヨに呼ばれたからではと感じた。
「ボス~♪ 舞台の周りに屋台が作られ始めてるね♪」
キジ―が瞳をキラキラさせる、わかりやすかった。
「なるほど、これが縁日と言う物ですか?」
アカネが興味を引いた。
「ヤチヨ村は、特になかったのかな?」
太郎がアカネに尋ねる。
「ええ、正月にコブジーさんのような芸人を歓待してする程度でした」
アカネが答える。
「じゃあ、今のブラックテイル討伐の旅を終えて皆でヤチヨ村に帰ったら皆で新しい祭りでも考えよう♪」
太郎がアカネに微笑むと、アカネが頬を染めて胸をときめかせた。
「……はい、太郎様♪ ですが、地球の方は宜しいのですか?」
アカネが喜んで答えつつ、太郎に尋ねる。
「地球は、盆暮れと正月に里帰りで良いさ♪ オーガシマをホームにするよ♪」
太郎はオーガシマに根を張ると宣言した。
「では、生徒会長殿の事は未練はないと?」
アカネが唐突に尋ねてくる。
「ぶっ! 生徒会長は、面倒見てもらったけど恋愛感情は無いぞ!」
太郎はアカネに垣花会長の名を出されて噴き出した。
「まあ、そうだったのですね♪ 安心いたしました♪」
アカネが満面の笑みになる。
「いや、びっくりしたぜ? 何言ってるんだよ本当に」
太郎は焦った、今まで忘却の彼方だった人物の名を異世界で仲間の口から聞くとは思わなかっからだ。
「いえいえ、恋敵になりそうな相手は警戒しておかねばと」
アカネが笑う。
「そう言うんじゃないから、まったく」
太郎は溜息を吐いた、押しかけ女房であり仲間が四人いるのに他の女子の事など考えてもいなかった。
「では、久しぶりに私は女子の姿になりまする♪ 浴衣デートと言うのをいたしましょう♪」
アカネは上機嫌で牛車へと戻って行った。
「浴衣でお祭りデート、かしこまりました♪」
ウコンも上機嫌になり着替えに向かった。
「ご主人様と屋台巡り、うふふ♪」
「浴衣♪ 浴衣♪ 屋台で浴衣♪」
キジ―もチグサも着替えに行った。
「あんた達は、若いねえ♪ 私も良い人探さないと♪ それじゃ私は、あの子達の着付けして来るから覗くんじゃないよ♪」
お園さんが太郎の背中をはたいた。
「マジかよ、浴衣デートって奴か?」
突如降ってわいた人生初のデートイベントに、太郎の心は悶えた。
「太郎様~♪ お待たせいたしました~♪」
普段着の白いパーカー姿で待ていた太郎の前に、真っ先に姿を見せたのはアカネ。
いつもはポニテで纏めていた髪を降ろし、赤い浴衣に虎縞帯と浴衣姿を見せる。
「……えっと、綺麗です」
太郎的には、久しぶりに見た女性モードのアカネに見惚れていた。
他人から見れば、浴衣を着た筋肉質な赤鬼娘だが太郎はアカネを美しいと感じた。
「そのお言葉をいただけただけで、幸せです♪」
アカネが満面の笑みを浮かべると、太郎の手を取り自分へと引き寄せた。
「私、幸せです♪ ああ、このまま独り占めしたい♪」
アカネが太郎を抱きしめて本音を叫ぶ。
「アカネさん、ずるいですよ! ご主人様、私の浴衣姿も見て下さい♪」
チグサは青く長い髪を団子にまとめた、青い浴衣に白い帯の犬耳娘となって現れた。
「むう、残念ですが次はチグサ殿の番ですね」
アカネが惜しみつつも太郎から離れる。
「うん、チグサも可愛いよ♪」
太郎が素直に褒めると、チグサは尻尾をパタパタと振って太郎の周りをぐるぐると回って喜んだ。
「大将♪ チグサ先輩も可愛いですが、私も負けてませんよ♪」
三番手のウコンは、肌は人間に化けて白い肌。
黄色の髪を頭の上で団子二つに纏め、黄色い浴衣にオレンジの帯。
こちらも黄色い猿の尻尾を出していた。
「ウコンさん、最年長なのにあざと可愛いですね」
チグサがジト目でウコンを睨む。
「ウキ~! 私は、褒めれて伸びる後輩キャラですってば~!」
自分でキャラ付けしてると言うウコン、残念キャラになっていた。
「うん、ウコンも可愛らしいよ♪」
太郎は素直にウコンを褒めると、ウコンが瞬時に距離を詰めて太郎に抱き着いた。
「ウキ~~~♪ ウコンは大将の可愛い子猿さんです~♪」
ウコンがあざとく太郎に頬をすり寄せた。
「ヘイ! ウコンはストップだよ!」
最後に出て来たのはキジーだった、緑の浴衣に赤い帯のロリ巨乳娘。
「ウキ~、仕方ないですねえ残念です」
キジ―が出て来たのでウコンが太郎から離れた。
「ボス~♪ ダ~~~イブ♪」
キジーは両手を翼に変えて羽ばたき、太郎の胸に飛び込んだ。
「うおっと、危ないって!」
キジーを受け止めて注意する太郎。
「エへへ~♪ ボスが受け止めてくれるもん♪」
キジーは気にも留めなかった、キジ―も満足したのか太郎から離れる。
「それで、太郎様はお着換えにならないのですか♪」
アカネが太郎緒に尋ねる。
「いや、俺が着替えたって誰が得するんだよ!」
太郎がツッコむと、仲間達が全員手を挙げた。
「当然、私達です♪ 私達には、太郎様の浴衣姿を堪能する権利があります♪」
アカネがキッパリと言い切ると仲間達が賛同する。
「ご主人様の浴衣姿、見たいですワン♪」
チグサが甘えながら言って来る。
「……ううっ! 大将の浴衣姿を見ないと、私の命がごほごほ!」
ウコンは突然猿芝居を始めた。
「ボスも浴衣になろうよ~♪」
キジーは普通に太郎のパーカーの裾を掴んでせがんだ。
「満場一致でございます、お覚悟を♪」
アカネが笑顔で宣告した。
「わかったよ、じゃあ全員で俺の着替えを手伝てくれ」
太郎は諦めて手を上げると、仲間達がやった~♪ と、大はしゃぎ。
仲間達全員に騎馬戦の如く担がれ、わっしょい♪ わっしょい♪ と牛車の中へと連れ込まれる。
そして。しばしの間太郎は仲間達の着せ替え人形にされたのであった。
「あんた達! 遊びの前に仕事だよ!」
太郎が白い浴衣に着替え終わった所で、お園さんが牛車の中へ駆け込んで来た。
「え? 何があったんですか!」
太郎がお園さんの様子に驚く。
「妖魔が突然出て来て、舞台を乗っ取っちまったんだよ~!」
お園さんが叫ぶ。
「ガッデム! 何それ、許せないよ!」
キジーは浴衣デートの思わぬ邪魔に激怒した。
「何たること、怒りが沸いて参りました!」
アカネも怒りの炎を燃やす。
「邪悪な妖魔、殺すべし」
チグサの目のトーンが消えた。
「お園さん、牛車を山車モードに! こうなりゃド派手に行きますよ!」
ウコンがお園さんに指示を出す。
「あいよ、やっちまいな♪」
お園さんが牛車の操縦席に向かうと、牛車のコンテナが変形し山車へと変わった。
「よし皆、ブレイブシフトだ!」
太郎が叫ぶと、皆が応と答えて変身した。
一方、舞台の上では三匹の妖魔が粋がっていた。
「チュ~♪ ここは我らが乗っ取ったチュ~♪」
タコの怪人が声高に叫ぶ。
「ゲソ~~! イカ焼きにされた同胞の怨み~!」
イカの怪人も恨み言を叫ぶ。
「ホタテ~! 俺達が人間共を焼いてやる~!」
ホタテの怪人が頭の貝を開き火炎放射で威嚇した。
突然の事態に動きが固まる店開き前の屋台の主達、そんな時だった。
「は~ッはッは♪ そこまでだ妖魔共っ♪」
ドンドンチャンチャンピ~ヒャララ、合間に三味線がベベベンンと景気良く祭囃子を大音声で響かせながら海の方から謎の山車が現れた!
「な、何者だ~っ!」
タコの妖魔が突然現れた山車に向かって叫ぶ!
そして山車から現われたのは五色の戦士達、異世界戦隊ブレイブシフターズだ!
「名を問うたな? お前達は運が良いな♪ 天からこの世にやって来た♪ 白桃の変身勇者、シロシフター!」
シロシフターが一番名乗り。
「赤鬼の変身勇者、アカシフター!」
次に名乗るは、太鼓を鳴らしていたアカシフター
「祭りの悪党、殺すべし♪ 忍犬の変身勇者、アオシフター!」
三番名乗りは、笛の奏者のアオシフター。
「電光一閃、猿臂の勢い♪ 美猴の変身勇者。キシフター♪」
四番手は、摺鉦を鳴らしていたキシフターだ。
「祭りの邪魔する悪党う共はゆるさない! 雉の変身勇者、ミドシフタ―♪」
トリに三味線をベンっと鳴らして、ミドシフタ―が名乗る。
「「我ら五人の変身勇者、異世界戦隊ブレイブシフターズ♪」」
山車の上から全員名乗り、夜空に五色の花火を打ち上げて威風堂々豪華絢爛♪
異世界戦隊ブレイブシフターズのお出ましだ♪
「者ども! 行くぞ!」
シロシフターが舞台へとジャンプすれば、仲間達も応と続く!
思わぬ敵の出現に、慌てて、シジミ頭の妖魔戦闘員達を召喚するタコの怪人。
「赤鬼の金棒、喰らいなさい!」
乙女心を鬼女に変え、情け無用の滅多打ち! アカシフターが戦闘員を薙ぎ払う。
「雑魚戦闘員、殺すべし!」
主には忠犬、敵には魔犬! 犬に変じて分身したアオシフターの群れが戦闘員達を仕留める。
「ヘイホタテ野郎、地獄へ落ちな! グリーンジャックポット!」
ミドシフターがホタテ怪人へ突撃し、貝の頭に最大風圧の空気弾をぶっ放す!
ホタテ怪人は夜空へ打ち上がり、汚い花火と散ったとさ♪
「ゲソゲソゲソ~!」
イカ怪人が触手で無数の突きを放って来る。
「ウキウキウキ~~~ッ!」
それを熊手さばきで打ち払うのはキシフター。
「その怨念ごとイカ焼きにしてやりますよ! 十方プラズマ身外身っ!」
キシフターがプラズマで十体の分身を作り出し、イカ怪人を十方から攻撃する。
キシフターの宣言通り、イカ怪人はイカ焼きとなって絶命した。
「さて残るは貴様だタコ男、大将同士一騎打ちだ♪」
シロシフターが軍配をタコ怪人へと向ける。
「先手必勝、スミバースト!」
タコ怪人が口から墨を噴き出す。
「その墨、そのまま返してやる!」
シロシフターが軍配を振れば風が巻き起こり、タコ怪人は自らの墨で黒蛸へと塗られた。
「止めだ、グンバイブレード!」
シロシフターの伝家の宝刀、グンバイブレードに黄金の炎が灯る!
タコ怪人は自らの墨で目が見えていなかった。
「タコはタコ焼き、成敗っ!」
シロシフターの一刀で、タコ怪人は真っ二つに切り分けられて燃え尽きた。
「これにて一件落着♪」
シロシフターが勝利を宣言する。
「「ブレイブ♪ ブレイブ♪ シフタ~~~ズ♪」」
仲間達が勝利の掛け声を上げると、万雷の拍手が屋台の店主達から鳴り響いた。
「ニシシ♪ あれが、ブレイブシフターズの腕前かまあまあだな♪」
そんなブレイブシフターズを遠くから見ていたのは、人間に化けたブラックテイルの笑い猫であった。
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