第10話 シフターズ、再び旅立つ

 「何やら、街の様子がおかしいですなあ?」


 皆で買出しに出ていたアカネが、周囲の様子に違和感を感じる。


 「確かに、皆さん何処かせわしないような?」


 ウコンも周囲の人間達がせわしなく動いている様子に気が付く。


 「年末時でもないのに、おかしいですよ!」


 チグサが明らかに変だと叫ぶ。


 「皆、何か街の人達から妖気が出てるよ!」


 キジ―が、自分達以外にせわしなく動き回る人間達の体から黒い妖気が出ている事に気が付く。


 「いや、人間から妖気が出るって事は取り憑かれてるって事か!」


 太郎がウコンから聞いた話を思い出す。


 「太郎様、シフトチェンジャーをお使い下さい! 軍配の神器による神威の風で、民に巣食う妖気を吹き払うのです!」


 アカネが太郎にシフトチェンジャーを使うようにアドバイスをした。


 「わかった、行くぜ! どりゃ~~~っ!」


 太郎がシフトチェンジャーで周囲を仰ぐと、軍配から金色の粒子が風と共に散布され人々の体から黒い妖気が蒸発するように噴き出て抜けて行った。


 「おお、やりましたよ大将♪ って、人達が倒れてく!」


 ウコンが叫び、手近な人間を受け止めて行く。


 「ああ、街の人達を助けないと!」


 キジ―も倒れかけている人々を受け止めに行く。


 「私にお任せ下さい、分身します!」


 チグサが分身の術で、自分を増やして受け止めて寝かせて行く。


 「おっと、私めも人助けと!」


 アカネも妖気が抜けて倒れた人達を助けて行く。


 「妖気が抜けたのは良いけれど、こりゃまずいな!」


 太郎も救助の方に加わり、ブレイブシフターズ達は人々を時間をかけて全員を街の治療所へと運び込んだのだった。


 「皆、大変だったねえ? 運び込まれた人達は、皆命に別状はないけれど過労で寝込んじまってるみたいだよ」


 お園亭へと戻って来た一行に、治療所の様子を見て来てくれたお園さんが情報をくれる。


 「こいつは一体、どうなってるんでしょうねえ? 無事な人は無事ですし?」


 ウコンが今回の出来事に首を捻る。


 「お園さんもご無事で何より、しかし厄介ですなあ」


 アカネも唸る、街の人々が倒れてしまえば街が機能しなくなる。


 「私達が遭遇したのは、商店の人達でしたけどそれだけでも厄介なのに」


 チグサが他の場所でも起こればどうなるかと危惧する。


 「職人さんや、他の街に関わる仕事の人達もああなったら街が完全に止まるよ!」


 キジ―がチグサの言いたい事を続けた。


 「敵の仕業と仮定して俺達が無事だったのは、種族と神様の加護のお陰かな?」


 太郎が自分達が無事な理由を考える。


 「おそらくはそうでしょう、この街で堂々と動ける妖魔や亜人は我らのみですし」


 アカネが太郎の言葉を肯定する、妖魔は妖気に取り憑かれると言う事はないし自分は神の眷属のオーガで太郎は神の孫でお園は神の加護がある人間と無事な事に理由が付けられた。


 「そうだな、運が良い♪ 俺達が気づけて街の人達を助けられたんだから、これからも何とかできるはずだ♪」


 太郎が前向きな事を言う。


 「そうそう、笑う門には福来るって言うからね♪ 人助けして評判を上げるよ♪」


 お園さんもポジティブ思考だった。


 「大将もお園さんも前向きですね、明るい♪ それじゃあ、人助けで人気をひと稼ぎとしましょうか♪」


 ウコンもやる気を出した。


 「もしかすると、ブラックテイルの仕返しかも知れませんね!」


 チグサがぎゅっと拳を握る。


 「誰だろうと、縄張りを荒らすのは許さないよ♪」


 キジ―も世話になった街を守るべく立ち上がった。


 かくして、ブレイブシフターズは街の異変は敵の仕業と仮定して事態の解決に動き出した。


 「こちら商店地区、敵は動いてないようです!」


 最初に事件を目撃した商店地区に向かったウコンが術で仲間達に報告を入れる。


 「こちら長屋地区、こちらも住民の方達は寝込まれてます」


 所得の低い層が生活する長屋地区を見回りに行ったチグサが報告を入れる。

 こちらは、治療所から出て自宅療養の者が多かった。


 「こちらは職人地区、こちらの忙しさは妖気ではなくその煽りかと思われます」


 アカネが向かった、物作りの職人達の店舗兼住居が並ぶ職人地区の様子は忙しかったが、敵の動きは感知できなかった。


 「皆、何か怪しい屋敷を見つけたから高級地区に集合!」


 太郎が仲間達全員に集合を掛ける、しばらくして仲間達が太郎の下に集った。


 「立派なお屋敷ですが、兎臭い妖気が漂ってます」


 チグサが目と臭いの両方で妖気を探知する。


 「流石は大将、運が良い♪」


 ウコンが太郎を褒める。


 「では、殴り込みましょう♪」


 アカネが呟く。


 「ブレイブシフターズの出番だね♪」


 キジ―がほくそ笑んだ。


 「あ~忙しい! 街の人間共の動きを加速させて過労で街を潰す作戦がひと段落したけれど忙しい!」


 屋敷の居間で一人愚痴を叫ぶ時計兎、何をしても忙しくせわしないのが時計兎と言う怪物であった。


 「異世界戦隊ブレイブシフターズ!」


 そんな時計兎のいる部屋の障子戸が勢い良く開き、現れたのは五人の変身勇者達。


 「お、お前達は黒兎関取を殺した奴らか! 忙しい、出あえ出あえ~!」


 時計兎が叫ぶが、手下は出て来なかった。


 「お前の手下はもうやっつけたよ♪」


 ミドシフターが胸を張る。


 「忙しさにかまけて、身の回りがお留守でしたね~♪」


 時計兎を煽るキシフター。


 「ブラックテイルの一味、殺すべし!」


 アオシフターが殺意を燃やす。


 「さあ、いざ尋常に勝負です!」


 アカシフターが金棒を構えた。


 「時計兎、覚悟~~っ!」


 シロシフターが叫び、ブレイブシフターズが一斉に時計兎へと襲い掛かった。


 「あ~、忙しい! 迷宮展開だ忙しい!」


 時計兎が金時計を操作すると、ブレイブシフターズも時計兎も異空間に吸い込まれた。


 「うおっ! ここはて、庭園か?」


 軍配を大上段に構えた姿でシロシフターが庭園に降り立つ、そこは緑の迷路と言う世界であった。


 「分断されたか? 生垣の壁など燃やせば良いのです、カナボウバーニング!」


 アカシフターが金棒を燃やして振り回し、生垣の迷路を破壊する脳筋戦法に出る。


 「迷路何て壊せば良いんだよ、ヒャッハ~♪」


 ミドシフターが、バンバン銃をぶっ放して風圧で周囲を破壊して行きながら進む。


 「迷路なんて、空を飛べる私には無意味です♪ 私、賢い♪」


 キシフターが雲に乗り、空から俯瞰しながら仲間達と時計兎を探す。


 「あ、あの雲はキですね♪ 忍者らしく、生垣は飛び越えます♪」


 アオシフターはジャンプで生垣の壁を飛び越えて進む。


 「くっそ~~~! 蛮族共め、奴らにはこの庭園の芸術的価値がわからんのか!」


 ゴールに当たる迷路の中心部で。紅茶を飲んで休んでいた時計兎が憤る。


 「見つけたぜ、兎野郎!」


 シロシフターが時計兎の下へと辿り着く。


 「殿、敵は茶を嗜むとはずいぶんと余裕があるようですな?」


 アカシフターが現れる。


 「賢い私のどこが蛮族ですか!』


 キシフターも集う。


 「お茶会、皆でしたいですね♪ 兎のお肉でごちそうを作って♪」


 時計兎を食料として見始めたアオシフター。


 「この兎は不味そうだよ、アオ!」


 ミドシフターも辿り着いた。


 「さあ、もう逃げ場はないぜ♪ 覚悟しろ!」


 シロシフターが、シフトチェンジャーを時計兎に突き付けた。


 「私はそう簡単に、やられはせん! クロックアクセル!」

 

 時計兎が金時計をいじると、超高速で動き出した。


 「うお!」


 「何っ!」


 「ありゃっ!」


 「シット!」


 「甘いです、せりゃ!」


 仲間達が吹き飛ばされる中、アオシフターだけは時計兎の動きに追いついていた。


 「どんなに動きが早くても、臭いで先読みは可能です!」


 「ば、馬鹿な!」


 アオシフターは、時計兎の動きと共に移動する臭いから未来予測を行い攻防を行っていた。


 「えいっ、今ですキ! 私の苦無を狙って雷を!」


 アオシフターが、苦無を時計兎の金時計に突き刺して叫んだ。


 「了解です、クマデサンダー!」


 キシフターが、クマデから雷を苦無が刺さった金時計に向けて放出すると見事に命中し金時計が爆散した!


 「ば、馬鹿な! 女王陛下から賜った、私の時計が!」


 時計を破壊されてショックで動きが止まる時計兎。


 「時計兎、お前の時間はもう終わりだ! グンバイブレード、成敗斬りっ!」


 最後の止めはシロシフターの、金色の炎の刃による一刀両断!


 「うぎゃ~~~! 女王陛下、万歳!」


 断末魔の叫びを上げて、時計兎はその身を斬られると同時に黄金の炎で焼き尽くされて消滅した。


 「イェ~~~イ♪ ブレイブ♪ ブレイブ♪ シフターズ♪」


 最後にミドシフターが、勝手に考えた勝利の掛け声を上げた。


 「ふむ、調子が良い掛け声ですな♪」


 アカシフターが、掛け声に好感触を持った。


 「我々が勝った上で、更に調子を上げて行く感じが良いですね♪」


 キシフターも好感を持った。


 「ブレイブ♪ ブレイブ♪ シフターズ♪」


 アオシフターも可愛らしく叫ぶ。


 「それじゃあ一件落着、大勝利♪」


 「「シフタ~~ズ♪」」


 シロシフターが最後に叫び、仲間達が締めの掛け声で今回の戦いの膜が閉じた。



 「さあ皆、演目のネタ集めに人助け世直しの地方巡業に出発だよ♪」


 それから数日後、お園さんが、元気な声を上げる。


 地球出身の太郎から見ると、プレハブと言うかコンテナハウスに大きく頑丈そうな車輪が四つ付いた真紅の車両を繋いだ牛車がお園亭の外に用意されていた。

 

 「ば、馬車じゃなくて牛車ぎっしゃ! しかもこの真っ赤な牛、何かからだから神気が出てて只者じゃないですよ!」


 ウコンが牛車だけでなく牛にも驚いた。


 「赤い猛牛、これはヤチヨ様のお使いですね♪ ありがたや♪」


 アカネが牛車を見て拝んだ。


 「この牛車、横側がお店のように見えますね?」


 チグサが牛車の周りを見て確認する。


 「そっか、祖母ちゃんの贈り物かお園さんもいるから乗り物はありがたいぜ♪」


 太郎がヤチヨに感謝する。


 「ヒャッハ~♪ 牛車の中身広いよ~♪ お園亭と同じ位で色々あるよ~♪」


 キジ―が一番乗りで中に入り見て回る。


 「よっし、ブレイブシフターズ改めて旅に出発だ♪」


 太郎の叫びに皆が応と答える、異世界戦隊ブレイブシフターズは乗り物を手に入れ再び諸国を巡る旅へと出発したのであった。

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