第9話 シフターズ、留まる

 「時計兎、あの黑い奴はその名をはっきりと言っていたな?」


 お園亭に帰り、楽屋に集まって仲間達と話をする太郎。


 「確かに申しておりました、偶然ですが敵はこの街に狙いがあるようで」


 アカネが答える、名前しか知らぬ敵とやっと遭遇したのだ。


 「この街の事、調べないといけませんかね?」


 チグサが真剣な目つきになる、仲間の中で元とはいえブラックテイルに最も迷惑を受けたのは彼女だからか敵に対しての怨みの深さが違う。


 「街だけでなく、敵の全体の目論見やらも調べたい所ですねえ?」


 ウコンも意見を言う、前回の黒兎関取は末端だったようで屋敷で敵の情報に繋がる物的資料は見つからなかったからだ。


 「敵の大まかな目的はキジ―はわかるよ、きっと狙いはこの世界の国盗りだよ!」


 キジ―が遠からずな予想を立てる、敵の行いは侵略行為ではあるからだ。


 「キジ―の推測は当たりだろうな、何はともあれしばらくはこの街に留まるか」


 太郎が宣言する、街に対しての敵の再来も考えると防衛の為にも暫くはお園亭の世話になるしかなかった。


 自分達が去ってから、敵に街が攻められては後味が悪い。


 「そんな暫くなんて水臭い♪ 私もとことんあんた達の面倒を見るさ♪」


 そんな時にお園さんが話に加わる。


 「ええ! いや、お言葉はありがたいんですが?」


 お園さんの申し出に驚く太郎。


 「勿論、親切だけじゃないよ♪ あんた達の話を演目にさせてもらうしね♪」


 お園さんが微笑む、その姿勢に太郎達は感心した。


 「いや座長、逞しいですね♪ 太郎の大将の次に興味深いお人です♪」


 ウコンがお園さんを褒め称える、お園さんはウコンに刺激を与えたようだ。


 「座長、格好良い♪ 旅に出た時は、しっかり守るよ♪」


 キジ―もお園さんを認めた。


 「頼もしいお味方が得られましたね、太郎様♪」


 アカネが太郎に微笑みかける。


 「お園さん、素敵な方です♪」


 チグサもお園さんの言葉に感動する。


 「全くだ、俺達は運が良い♪」


 太郎が微笑む、お園さんと言う人間側の味方を太郎達は得られた。


 「旅に出る時は私も付いて行くよ、地方巡業の達人だからね♪」


 お園さんが腕をまくり、力こぶを作って微笑んだ。


 そんなこんなで、会いに行けるご当地ヒーローとなったブレイブシフターズ。


 変身勇者に関しては芝居の設定だと思われて、と一応世を忍べて過ごせていた。


 「あ~忙しい、忙しい! 今日は、幹部達とのお茶会だ!」


 何処とも知れぬ闇の中を走るのは、黒のモーニング姿の白い人間大の兎。


 金の懐中時計で時間を確認しつつ、不気味な西洋の城へと辿り着けば城門が開く。


 「くっくっく、君はいつもギリギリだねえ♪」


 白の庭園、レースが敷かれて紅茶にお茶菓子と支度が整った丸テーブル。


 「うるさいよ帽子屋、君も時間に追われて働き給え!」


 時計兎は、異様な大きさのシルクハットを被り紅白の水玉の蝶ネクタイを締めた色白の美青年に向かて叫ぶ。


 「残念、私の時計は常にお茶の時間で止まているんだ♪」


 美青年の帽子屋は笑って見せた。


 「ニシシシシ♪ また時計兎と帽子屋が喧嘩してるよ♪」


 帽子屋の隣には首だけを浮かせた猫が歯を見せて笑っていた。


 「笑い猫、お前の笑い顔も気に入らなくて忙しい!」


 時計兎は苛立ちを強めた。


 「まあ、そろそろ女王アリスが到着する席に着き給え」


 時計兎に尊大な態度で声をかけるのは、巨大な白い卵に手足と人の顔が付いたような異形の怪人だった。


 「卵男がやって来た♪ お茶会の始まりだ♪」


 帽子屋が卵男の登場で歌い出す、そして最後に現れたのは青いエプロンドレスを身に纏い頭にハートの王冠を被った金髪の美少女であった。


 「ごきげんよう、幹部の皆様♪ 今日も楽しいお茶会にしましょう♪」


 女王アリスが開会を宣言すると幹部一同はアリスに対して礼をした。


 「それで、どこかの街であなたの部下が倒されたそうね時計兎?」


 アリスが帽子屋の入れた紅茶を飲みつつ、意地悪な笑みを時計兎に向ける。


 「はい、その事もあり忙しいんです! ああ、忙しい!」


 忙しそうにスコーンを食い、紅茶を飲んで時計を見る時計兎。


 「ニシシシシ♪ どんな奴らに殺されたんだか♪」


 笑い猫はにやにやといやらしく笑う。


 「まあ、時計兎の腕前を高みの見物と行こうか♪」


 紅茶を飲みながら帽子屋も笑う。


 「ふむ、時計兎はがんばりたまえ」


 卵男は不遜な顔で、偉そうに呟くだけだった。


 「あの世界の神様達も動き出したみたいね、楽しいパーティーになりそう♪」


 アリスはケーキを食べながら無邪気に微笑んだ。


 「忙しい、新たな手下を送り込まないと! それではお先に失礼!」


 時計兎は一足先にお茶会を抜け出して消えて行った。


 ブラックテイル、無邪気に邪悪な女王アリスと異形の幹部達でオーガシマを狙う悪の組織であった。


 「時計兎も、ワルジーのじいさんみたいに殺されるかな?」


 立ち去った時計兎を見送りつつ、笑い猫は笑う。


 「まあ、彼が殺されても我々にとっては痛くないがね」


 卵男は冷たかった。


 「死ねば彼も忙しさから解放される、彼の時計も止まるさ♪」


 不謹慎な事を言いながら、自分に紅茶を注ぐ帽子屋。


 「そうね、私達は世界を玩具にしながら楽しく遊ぶだけ♪」


 アリスも瞳に黒い邪悪な炎を燃やして笑い、紅茶を味わった。


 ブラックテイルに仲間意識と言うものは存在しなかった。


 敵が動きを見せ始める中、ブレイブシフターズにも動きがあった。


 「キャ~~~♪ 太郎♪ タ・ロ・ウ♪」


 その日、お園亭の客席で一人大盛り上がりしている客がいた。


 「俺の孫が舞台に立つとはなあ♪」


 大盛り上がりしている褐色の美女の隣で、笑顔で部隊を見守る美青年。


 「ウホ! 良い男♪ 推します、推させていただきます~♪」


 おひねりを舞台に投げる眼鏡をかけた青い着物の黒髪の美女。


 「ぎゃっはっは、あの猿が舞台に立つとはまさに猿芝居♪」


 大爆笑している坊主頭に黄色い着物姿の恰幅の良い男性。


 そんな一風変わった珍客達が、彼らの芝居を観劇に訪れていた。


 「たたた大将! 今日のお客さんの中にヤベえ方々が!」


 楽屋にてウコンが太郎に向かて叫ぶ。


 「確かに、ヤチヨ様と他の神様もおられましたね」


 アカネがウコンの言葉に納得して頷いた。


 「おおう、マジか! 祖母ちゃん達、見に来てくれたんだな♪」


 太郎は照れた、家族に舞台を見られると言うのは初だったからだ。


 「神様、ご主人様って凄いんですね♪」


 チグサは太郎に感心する。


 「ボスのグランマなら、キジ―達の味方だよね? ウコンは何びびってるの?」


 キジ―としては、何故ウコンがヤチヨにビビってるのかわからなかった。


 「いや~、皆お疲れ様♪ はい、大入りが出たよ~♪」


 お園さんがやって来て、皆にぽち袋を手渡しして行く。


 「う、臨時収入は嬉しいんですけど! ぽち袋から知ってる神の気が出てます!」


 かつてヤチヨや神を相手に喧嘩したらしいウコンの笑顔がひきつる。


 「よう、差し入れだぜ太郎♪ 仲間の皆さんもどうも♪」


 「太郎ちゃん♪ ナイスアクトでしたよ~♪」


 「ウハ♪ 推しと同じ空気、でゅふふ~♪」


 「おう、ここが楽屋か♪」


 太郎の祖父の太助、祖母のヤチヨ、そして残念な美人と恰幅の良いおじさんが楽屋にやって来た。


 「あれまあ、差し入れはお寿司♪ そして神様と勇者様じゃありませんか♪」


 お園さんが太助達を受け入れた。


 「祖父ちゃん、祖母ちゃんありがとう♪ この人達は神様?」


 太郎が祖父母に尋ねる。


 「イエ~ッス♪ お祖母ちゃんの神仲間で先代の勇者達でっす♪」


 ヤチヨが眼鏡美人と、坊主のおじさんに目を向ける。


 「でゅふ♪ 初めまして、太郎きゅん♪ 先代ブルーの海の女神のトヨでっす♪」

 

 トヨが息を荒くしながら挨拶をする。


 「初めましてだな、俺は石と金属の神のガンテツだ色はグレイだった♪」


 坊主のガンテツも笑顔で挨拶する。


 「初めまして太郎です、宜しくお願いします♪」


 太郎も礼儀正しく挨拶をする。


 「ウホ♪ 推しに胸キュンですぞ、ヤチヨ殿~♪」


 「はいはい♪ 手出しは駄目ですよ~♪」


 「まあ、お前らが丁度動きを止めたんで顔を見せに来たんだ♪」


 トヨは萌えて、ヤチヨはそれを制し、ガンテツが語る。


 「いや、悪かったな今まで連絡取れなくて♪ 何とか、他の神との話が付いた♪」


 太助が太郎に詫びる、どうやら神の世界でも何かあったらしい。


 「全くですよ、あの女神の所にカチコミして型にハメたので普通の人間からの邪魔とか妖魔だから酷い扱いとかはなくなりますからね♪」


 ヤチヨが太郎達にサムズアップする、支援の為に動いてくれていたらしい。


 「うん、何か大暴れな感じがするけれどありがとう♪」


 祖母に礼を言う太郎。


 「と言うわけで、これから我ら神々が推しの太郎きゅんや皆さんの戦いを応援させていただきますぞ♪」


 トヨが太郎の手を握り興奮して叫ぶ。


 「あ、ありがとうございます」


 仲間達からの嫉妬の視線に耐えつつ太郎が答える。


 「いやあ、神様が味方してくれるてのはありがたいねえ♪」


 お園さんが寿司を食いながら喜ぶ。


 「お園ちゃんも大きくなりましたねえ♪ 太郎ちゃん達の事は、宜しくお願いしますねえ♪」


 ヤチヨがお園に頭を下げると、お園は寿司を喉に詰まらせた。


 それはアカネがお園の背中を叩いて助ける。


 「ふう、助かった♪ いえいえ、子供の頃に一座を助けていただきましたし♪」


 助かったお園がヤチヨに頭を下げる。


 そんな雰囲気で、お園亭は神と妖魔と人間がともに飲み食いし笑い合う宴に突入したのであった。


 「ふう、昨日は楽しかったな♪ 味方も増えたし、運が良い♪」


 久しぶりに祖父母と会い、仲間達と宴会をして英気を養った太郎。


 「まさか、ヤチヨ様以外の神々からもご支援いただけるとは人徳ですなあ♪」


 アカネが太郎に微笑む。


 「うう、娑婆に出られても神様の目から逃れられないって奴ですよ」


 ウコンは身が引き締まる思いだった。


 「これからは、普通に宿に泊まれるんだ♪」


 チグサは今後の憂いが減って喜んだ。


 「それじゃあ、今日も頑張て行こう♪」


 キジ―が元気に気合を入れる。


 こうして神々と言うスポンサーが付いたブレイブシフターズ。


 だが、彼らは知るよしもないがブラックテイルとの次の戦いが密かに近づいて来ていた。

 

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