第8話 シフターズ、宿を得る

 「ぎゃ~~~っ! さ、山賊だ~~っ!」

 

 御者の人が叫びを上げて馬車が泊まる。


 「むむ、出番ですな♪」

 

 アカネが笑顔で馬車から飛び出す。


 「ヒャッハ~♪ 間抜け共が出やがった~♪」


 キジ―も馬車から飛び出す。


 「お金が向こうから飛び込んできましたよ~♪」

 

 ウコンも元気に飛び出した、彼女の場合は人間とお金の区別がついていないのではなかろうか?


 「ぎゃ~~~っ! 赤鬼に、猿と雉の妖魔だ~~~っ!」


 「た、頼む! もう金輪際、うばあっ!」


 「ひ、ひいっ! もう駄目だ~~~っ!」


 「山賊ども、ブレイブシフターズが成敗してくれる♪」


 アカネが笑顔で金棒を振っているのが伝わる。


 「そ~ら♪ 死の舞踏を踊りな♪」


 キジ―がパンパンと鉄砲を撃ってる。


 「貴方達の首の賞金は、我々の収入になります!」


 ウコンも容赦なく山賊達を処理していた。


 「大丈夫ですよ♪ もうしばらくしたら片付きますから♪」


 チグサが他の乗客達を宥めていた。


 「と言うわけで、山賊達の賞金は俺達の駄賃と言う事で宜しくお願いします」


 太郎が乗合馬車の持ち主であるお爺さんに告げると、お爺さんは頷いた。


 「皆、大丈夫か?」


 太郎が馬車の外へ出ると、元気なアカネ達に馬上で気絶している御者の他には命ある者はいなかった。


 「ボス~♪ 皆やっつけたよ~♪」


 キジ―が笑顔で手を振る、反対側の手には山賊の首。


 「ああ、キジーちゃん! 山賊の首は、首桶に閉まって下さいよ!」


 ウコンも、倒した山賊の首を隠して叫ぶ。


 「太郎様、成敗完了です♪」


 アカネも笑顔で勝利報告をする、ブレイブシフターズは引き受けた乗合馬車の護衛に成功したのであった。


 「皆ありがとう、お疲れ様♪」


 この世界では、強盗や殺人などで人に直接害を為す悪党は容赦なく命を絶たれる。

 それを知った太郎は、そうしないとこの世界では誰も守れず助けられないのだと納得した。


 「じゃあ、この山賊達を埋めて弔ってやろうぜ♪」


 太郎が告げると同時に、チグサが馬車から飛び出してきた。


 「穴掘りはお任せ下さい♪」


 チグサが巨大な犬に変じると、地面に埋葬用の穴を掘りだす。


 「それじゃあ、私が穴へ放り込みましょうかね?」


 ウコンは、山賊達の体をチグサが掘った穴へと入れて行く。


 「キジ―は適度な石を見繕って来るよ、ボスは優しいね♪」


 キジ―は腕を羽に変えて飛んで行く。


 「では、火葬はお任せを!」


 アカネが口から炎を吐き出して、山賊達の死体を焼く。


 アカネが焼き終えると、チグサが穴を埋める。


 そして、キジーが墓石になりそうな石を空から持って来て穴の上に置く。


 「それじゃあ、山賊塚っと!」


 ウコンが石に山賊塚と術で刻印し、墓石に加工し設置する。


 「皆ありがとう、それじゃあお弔いで」


 最後に太郎が墓に手を合わせて祈った。



 山賊達の退治と供養を行った太郎達は、再び馬車に乗って街へと辿り着いた。


 その街では、何故か仲間達が妖魔探知機に感知されなかったので問題なく入れた。


 「大将♪ この街は大きい退治屋の店があるらしいですよ、換金しましょう♪」


 ウコンが笑顔で太郎に語りかける。


 「わかった、皆で行って換金しよう♪ いつまでも首桶持ってるのも良くないし」


 そして、太郎達は広めの館並みの大きさの建物に向かう。

 

 「いらっしゃいませ、退治屋へようこそ♪」


 黒い着物に白い割烹着姿の娘さんが出迎えてくれる。


 「換金で、首桶六つの見分をお願いします♪」


 アカネが娘さんに首桶を渡すと、娘さんは引きつつも仕事をしてくれた。


 「ふ~♪ 山賊達の首も片づけましたし、お風呂で身を清めましょう♪」


 ウコンの言葉に皆が賛成して、風呂に食事にとなだれ込む。


 「ボス~? この街なら、手掛かりはないかな~?」


 飯屋でキジ―が煮魚の定食を食べながら太郎に尋ねる。


 「そうだな、退治屋や口入れ屋を調べて見るか」


 太郎も煮魚の定食を食いつつ答える、この街ならブラックテイルについて何か掴めるかもしれない。


 「では、今度こそ宿がいりますね?」


 アカネが重要な事を言う、旅暮らしのブレイブシフターズは宿なしであった。


 「どこか、最低限きちんとしつつ私らが泊れる宿がないもんですかねえ?」


 ウコンが溜息を吐く。


 「私は、いざとなれば!」


 チグサが何かを決意する。


 「駄目だよチグサ、きちんと皆で泊まれる宿を見つけよう?」


 太郎の言葉に、皆が頷いた。


 そうして、全員で街を回っていると二階建ての大きめの芝居小屋を見つけた。


 「この世界にも、娯楽の場ってあるんだなあ♪」


 太郎が久しぶりに文化的な物を見て微笑む。


 「おや、大将♪ 用心棒募集って、張り紙がありますね♪」


 ウコンが芝居小屋に貼られていた張り紙を見つける。


 「ボス♪ この仕事、良いかも♪」


 キジ―が興味を覚えた。


 「お芝居、素敵ですよね♪」


 チグサはどちらかと言うと役者の方に興味を持っていた。


 「太郎様、ここは受けて見ましょう♪」


 アカネも興味を覚えたようで、全員で芝居小屋に入った。


 「……あんた達が用心棒? 坊ちゃん嬢ちゃんは、役者の方が似合うねえ♪」


 芝居小屋の主である桃の着物を着た恰幅の良い美女、おそのさんが太郎達を見る。


 「俺達、実は変身勇者なんです! ブレイブシフト!」


 太郎に合わせて全員で、お園さんの前で変身する。


 「……うへえ♪ まさか、本当にいたんだねえ♪」


 お園さんは驚いたが、怖がるどころか喜んでいた。


 「……うき? 私らが怖くないんで?」

 

 キシフターが、驚いた。


 「おお、殿♪ 我々、初めて大衆に喜ばれましたぞ♪」


 アカシフターが喜ぶ。


 「今までは悪党や妖魔達を震え上がらせてきたけど、喜ばれるって楽しいね♪」


 ミドリシフターが初めての体験にはしゃぐ。


 「……妖魔でもある私達の事、受け入れていただけますか?」


 アオシフターがオドオドと尋ねる。


 「あっはっは♪ こんな頼もしい人達が来てくれたんだ、勿論だよ♪」


 お園さんはブレイブシフターズを受け入れてくれた。


 こうして、ブレイブシフターズは芝居小屋のお園亭そのていにて用心棒兼役者兼店員として雇われたのであった。


 「……ちい、お園の奴め妙な奴らを雇ったな? こいつは厄介だ」


 道の影からお園亭を覗くのは、着流しに半纏を着た強面の男。


 立ち去る男の体から黒い闇が漏れだしたのに誰も気づきはしなかった。


 それからと言う物、お園亭は人気を盛り返していた。


 「天からこの世にやって来た♪ 白桃の変身勇者、シロシフター!」


 「唸る剛腕、悪党は金棒で砕きます! 赤鬼の変身勇者、アカシフター!」


 「月夜に悪党、殺すべし♪ 忍犬の変身勇者、アオシフター!」


 「電光一閃、猿臂の勢い♪ 美猴の変身勇者。キシフター♪」


 「平和を願い銃を撃つ♪ 雉の変身勇者、ミドシフタ―♪」


 「我ら五人の変身勇者、異世界戦隊ブレイブシフターズ♪」


 ブレイブシフターズが舞台の上で名乗りを上げる。


 「いよ♪ シフターズッ♪」

 

 観客の一人が声を上げる、ブレイブシフターズはお園さんが太郎達のこれまでの話を聞いて台本を書き上げて芝居にしてしまったのだ。


 本物が自分達の役を演じるその芝居は、妖術を演出に使う事で人気を博していた。


 「何か運が良いな♪ こうして自分達の事を話に纏めてもらえるなんて」

 

 その日の舞台を終えて、楽屋で太郎達が語り合う。


 「全くですなあ♪」


 アカネも気分が良かった。


 「新しい世界が開けましたよ、人間もさるものですねえ♪」

 猿のウコンにさるものと言わせるほど、芝居の活動は彼女に変化を与えた。


 「こう言う仕事も悪くないねボス♪」


 キジ―が差し入れの団子を食いながら喜ぶ。


 「皆お疲れ様、まさか先代の勇者様に助けられた私が当代の勇者様と芝居をするとは奇妙な縁だねえ♪」


 お園さんも微笑む、彼女の話に全員が驚いた。


 「だから俺達受け入れられたのか、祖父ちゃんたちに感謝だな♪」


 太郎の言葉に全員が頷いて大笑いする、そんな平和な日々に密かに危機が迫っていた。


 「やいお園! テメエの所の芝居小屋の利権を黒兎一家くろうさぎいっかに寄こしやがれ!」


 お園亭に乗り込んで来た着流し姿のチンピラ。


 「誰が渡すか馬鹿野郎!」

 

 太郎が、シフトチェンジャーを振るい突風でチンピラを外へと吹き飛ばす。


 「用心棒として、成敗します!」


 チグサの苦無が、チンピラの首を切り落とす。


 チンピラの死体は、街の掃除屋が喜んで回収して行った。


 「面倒くさい事になったねえ、退治して来てくれるかい?」


 お園さんが溜息をつきながら太郎達に頼んで来た。


 「そうですね、街で悪さしてる奴らみたいですし掃除して来ます」


 太郎がお園の依頼を引き受けた。


 「よっしゃ♪ 久しぶりに芝居以外での悪党退治ですね大将♪」


 ウコンがテンションを上げる。


 「黒兎、時計兎とやらとも関連がありそうですな」


 アカネが太郎に言うと太郎も頷く。


 「ブレイブシフターズのカチコミだ~♪」


 キジ―の叫びに全員が応と答えて出撃した。


 ブレイブシフターズが変身して街外れの黒兎一家の屋敷へと向かう。


 するとご丁寧に、武装した黒兎一家が待ち構えていた。


 「来やがったな、俺らは芝居みたいに簡単にはやられねえぞブラックチェンジ!」


 一家の親分らしい強面の男が黑い兎の怪物へと変身した。


 「ブラックテイル、時計兎様の配下! 黒兎関取くろうさぎせきとり様だ!」

 

 黒兎関取が名乗りを上げる。


 「ついに現れたかブラックテイル、運が良いぜ退治してやる!」


 シロシフターが叫ぶと同時に、敵の手下達も黒兎の戦闘員に変身して襲って来た!


 「行きますよ~♪ プラズマ身外身の術!」


 キシフターがプラズマの分身を生み出して、戦闘員へとけしかけた。


 「私も行くよ、エアカッター♪」

 ミドシフターが両腕を羽ばたかせ、突風の刃で戦闘員達を切り倒す。


 「親玉の影から、手下のお替りです! ウルフアタック!」

 

 アオシフターが青い狼の姿となって突進し、戦闘員達を弾き飛ばして行った。


 「敵将は殿の手で、赤鬼の焦熱地獄です! カナボウブレイズ!」


 アカシフターが金棒で大地を突けば、火柱が上がり戦闘員達を焼き尽くす。


 「げげ! よくも手下どもを~~~っ!」

 

 黒兎関取がシロシフターに突っ込んで来る。


 「来たな、ならば相撲で倒してやる!」


 シロシフターが突っ込んで来た敵を捕まえると、担ぎ上げて屋敷へと放り投げた。


 「ば、馬鹿な! 白くて弱そうだったのに!」


 シロシフターを侮っていた黒兎関取が、壊れた屋敷から起き上がる。


 「グンバイブレード、成敗斬りっ!」

 

 シロシフターがシフトチェンジャーを軍配から刀へ変形させると、その刀身い黄金の炎が灯った。


 そして、黄金の炎を纏った刀による斬撃は黒兎関取を両断すると同時に光の粒子へと変えたのであった。


 「これにて一件落着、我らが勝利だ!」


 シロシフターが勝利を宣言する、かくしてブレイブシフターズはブラックテイルの構成員との初戦闘に勝利したのだった。

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