第2話

 ずっと同じ言葉を反芻している。


(……これじゃ、まるで変質者だ)


 それでも、脚は先へ先へと進んで行く。


 気づいたのはいつ頃だったろう?


 ちとせが真夜中に部屋を出て行く。


 注意していると、一度や二度のことではない。


 不規則ながら、週に二、三回は出て行っている。


 直接問いただす勇気を持てず、正太郎は結局ストーカーのように彼女の後をつけてきた。


 もう30分以上歩き続けている。


 閑散とした深夜の街を、真っ黒な布袋を手にふらふら歩くその後姿に、正太郎は薄ら寒いものを感じずにいられなかった。


 しばらくすると、彼女は街外れの小さな公園へ出た。


 街灯の下の砂場やジャングルジムをすり抜け、ちとせは公衆便所へ入って行った。


 正太郎は生垣の陰で息を殺し、じっと成り行きを見守った。


 壁の向こうから姿を見せた彼女が、異様な装束に身を包んでいるのを見て、正太郎は胸が悪くなった。


 白衣に手甲、脚絆と白い直足袋。


 腰に巻いた帯が、闇に紅く浮き上がっている。


 その姿で、ちとせは公園を出て右に折れ、長い坂道を登って行った。


 正太郎は身動きできず、そのまま彼女を見失った。


 震える肩を強く押さえつけ、来た道をとぼとぼと引き返した。


 坂の上に続く石段の終わりには、朽ち果てた小さな社があるはずだった。

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