書物研究
ゴブリンパークの檻には大きさが三段階ある。
一番小さな、それでも大きい部屋ほどもある
中くらいの、庭付き一戸建てが数件入るのが
そして一番大きな、町や村が丸々入る巨大な檻が
天井が無く、周囲を石壁に囲まれてるのは同じ、だが床にはいくらかの土が盛られていて、その上には石や岩が転がり、ため池があって、草木が植えられてあった。加えて檻ごとに特徴的な、簡素な村だったり砦だったりがこしらえてあった。
ここがゴブリンパークの要、ゴブリンを自然に近い環境で飼育し、生態を観察するための檻だった。
……あそこへ俺が入れたのは五回、いずれも駆除が終わった後の跡かたずけで、戦闘行為は一切なかった。
それだけあそこは危険なのだとわかる。
他の檻とは違って死角も多いし枝や石など武器になるものも多い。それにいざとなっても救援はなかなか間に合わない。
そんなあそこに入れるのは一人前だけで、俺は明日一人前になる予定だった。
その前の休息期間、明日に備えて体を休める期間、だから体を動かし疲弊するわけにも行かず、かといってじっともしてられなかった。
結果こうしてゴブリンパークの図書室で慣れない読書に勤しんでいた。
……ゴブリンパークは出資こそ民間ながら公共機関としてその研究結果、観察情報を一般に開示していた。
当然、あそこで起こったことなどを、中で働いている俺でも閲覧することができる。
分厚い報告書の束は叡智の結晶、その中身の薄さはゴブリンの薄さを意味していた。
大半が似たりよったり、餌の量や栄養素の比率、男女比、寿命、環境の変化、色々やってはいるが結局その数が増減するだけで質としての変化は乏しかった。
対ゴブリン用の武器、戦術に関しても、様々検証してはいるけれども結局ゴブリンは雑魚、勝って当たり前、差異が生まれるとしたらゴブリン側ではなくこちら側、使い慣れた武器戦術を用いれば効率が良い、で止まっていた。
唯一興味を引いたのは『火』を用いた実験だった。
焚き火のある環境にゴブリンを放つと、その明るさに興味を持って集まってきて、各個体がその熱さを体験し終わると怯えて一定の距離を取る。それから夜や気温の低下が起きると恐る恐る近寄っていき、追加の火傷と犠牲を出しながら安全な距離を見つけ出す。
火を恐れないのは驚愕ながら、知能は獣なので、薪を加えなければ消えてしまうということまでは頭が回らないとのことだ。
更なる追加実験は笑えた。
薪を焼べるところを見せたりとゴブリンどもに火の維持の仕方をみせると、低確率ながらこれを学習したとある。そして次に行うのが高確率で、放火だった。
程よい大きさの焚き火を維持するのではなく、用意された薪を全て投入、更に火のついた薪を引っ張り出し松明のように振り回すと片っ端からその火を押しつけて燃える燃えないと試し続けた。
火に水や土をかければ消えることを学習させようとしても一切無視して、燃やせるものを燃やし尽くし、最後は熱中症か酸欠かコゲスミになって死ぬ。
ゴブリン相手に炎を用いないのは生き残りが放火して回るリスクを考えてのことだった。
火を踊れず、実用性を知りながらこれとは実にゴブリンとは、愚かな生物だ。
思い読み進めていると新たな読者が、ふと顔を上げると見覚えのある顔、あの同期の女だった。
たった一匹のゴブリンも殺せず、何しにここに来たのかと思ったが、辞めずに続けてるとは噂で聞いていた。
配属は繁殖部、ゴブリンどもを養殖し、増やすという実験や研究の準備部署さだと聞いた。
これから一匹残らず殺すというのに、そのためにわざわざ増やすというのは逆に罪深いこと、だからなり手は少ないとは聞いていた。
そこへ入ったのは、仕事だからか、強くなるためか、あるいは他の何かがあるのだろうか。
思う俺の視線から逃れるように、女は図書室奥へと引っ込んで行った。
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