第19話 モブ
「我々は降伏致します。シェリフ殿」
老いた魔族の男が、杖を突きながら庇う様にシャルクの前に現れる。
「お前がこの村の長か?」
俺がそう問いかけると、男は頷いた。
「ジル・ルーと申します。お見知りおきを」
「そうか。ではこれから長い付き合いになるだろうし、よろしく頼むよ」
「それで、我々は一体どうなるのでしょうか?」
不安なのだろう。
突然現れた人間。
それが一瞬で村を制圧した。
一騎打ちにも破れ打つ手はなく、俺の意思に従う未来しか残って居ない。
「心配するな。先も行った通り、お前達には俺の配下に成って貰うとそれだけの事だ。実際の扱いは実験対象及び市民という事になるな。兵士は志願制だ。やりたい奴だけやってくれ」
どうせ、機動装甲の操縦要員としてしか人の力は必要ない。
アークプラチナの設備ならオートマタは幾らでも製造可能。
カナリアの様にオプションを付ければ、戦闘力で人間等簡単に勝れる。
それでも俺が人口を求めるのは一重に魔法の為だ。
無論、オートマタが魔法を使えるような技術を開発できれば一番だ。
実際、カナリアはもう魔石を利用して魔法の発動を可能としている。
しかし、早々にオートマタが人間を越える魔法使いになるとは思っていない。
だから魔法使いの育成という意味で、人口は必要だ。
「実験とは?」
「勿論固有術式に関しての研究だ」
そう言うとジルが息を吞んだ。
「待ってくれ領主」
シャルクがそう言って前に出て来る。
「その実験、俺が受ける。その代わり他の皆には平穏を約束して欲しい」
「シャルク……!」
「悪いがそれは無理だな」
研究実験をするというのに単一の個体しか調べないんて在り得ない。
統計も何もあったものじゃない。
アモデウスの場合は、実験対象が一体しかいないからあいつだけだった。
しかし、こんなに沢山の魔族が居て、1人しか調べないなんて無駄も良い所だ。
「頼む! この通りだ!」
そう言うと、男は俺に対して土下座を始めた。
「頭を上げろ。実験には優先的にお前を使う。しかし全ての実験がお前だけで成り立つ訳もない。血液検査や簡単な検査に関しては全員が受けて貰う」
「……族長」
「あぁ、すまぬなシャルク。分かりましたシェリフ殿、それでお願いいたします」
「不安に思う必要はない。食料は潤沢で仕事からも解放されるぞ。学習の場も用意していある」
感謝を集めたいわけじゃない。
ただ、無能のままでは俺が困るだけだ。
餓死されても、病死されても、俺の領民が減るのは困るだけだ。
「カナリア、帰還するぞ。魔族たちをアークプラチナに入れろ」
「了解しました」
そう言うと同時にアークプラチナが下降を始める。
村の横に宇宙船が着陸し、それに魔族が乗っている。
これで俺の支配領域は元の領地に加えてここも入る。
とはいえ、開発する気はない。
アークプラチナの内部設備で足りているからな。
「リラ、よくやったな」
「光栄です。しかしよろしいのですか?」
「何がだ?」
「魔族と人間を同じ生活圏で生活させる事です」
敵対種族を同じ場所で生活させる問題。
考えて居なかった訳じゃない。
だが、問題ないと判断し、それよりも固有術式の解析を優先するべきだと判断した。
「ディアナ、領民たちの纏め役を任せる」
「お任せください。一度だけシェリフ様のお力をお借りしたいのですが、よろしいですか?」
「あぁ、問題ない」
そろそろ領民には働いて貰うとしよう。
教育段階は50%近くが未だ初等教育どまりだ。
しかし、リラを見る限りアークプラチナの学習機能が不足している訳では無いだろう。
できないならできないで構わない。
しかし、それに構ってやる程暇じゃない。
「カナリア、まだ初等に居る奴は実験台にしていいぞ。魔法使いとして育成する」
「魔族は如何いたしましょう」
「そっちにも有能なのが居るかもしれないから1年半程教育してやれ」
「了解」
残り1年半。
これは主人公がアークプラチナを発見するまでの時間でもある。
もうアークプラチナは俺の手中だ。
主人公が何か俺に害を与える事は無い筈だ。
しかし、もしもが無いとも言い切れない。
何せ相手は因果を超越して主人公と定められた者だ。
備えて置くに越した事は無い。
もしも、あの主人公と敵対したなら殺す事も選択肢には入れざるを得ない。
「ご心配なく」
心を読んだ様にカナリアがそう言った。
「AIでも気休めを言うんだな」
「これは己に対する自信です」
「なるほど。いつだって期待はしているぞ」
「信用も信頼も期待も要りません。ただ私は結果を示すだけなのですから」
そう言って彼女は俺から顔を背けた。
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