第15話 休暇
パチリと部屋に音が響く。
目の前に座るカナリアが、薄く笑い俺に言う。
「王手、ですね」
「お前……王以外の駒全部取るのは何なんだよ」
チェス。
トランプ。
将棋。
オセロ。
それ以外も、殆どのボードゲームやカードゲームをやったが、終ぞ一度も勝てなかった。
遊ばれてる感じがヤバい。
カナリアレベルの並列処理能力があれば、船の業務を円滑に進めながら俺の遊戯の相手をするくらいは余裕なのだろう。
「そもそも、旦那様は何故私とこのような事を? 結果は目に見えていたと思いますが」
そりゃそうだろうよ。
あり得る全ての盤面を記憶可能な人工知能様に、遊戯で俺が勝てる筈もない。
王しか無くても負けそうだ。
だが、そんな見え透いた物に興じたくなるほどの理由が俺にはある。
「暇すぎるだろ……」
「旦那様には既に現代レベルの一般教養がありますからね。それ以降の専門的な物を学ぶにしても、分野が多いので他に任せる方が人の身では効率的です」
「お前の言う通りだ。面白い事の1つでも起こらない物か」
専門的な知識なんて一つも要らない。
全部カナリアの中に入ってるのだから。
「盗賊もこの前ので壊滅。横の魔族に動きは無く、王都の辺りで何か変化があるって感じもしない」
結果、暇すぎる。
人工知能に指示は出し終えている。
今は結果待ちだ。
目下最大の脅威は悪魔が使う精神干渉系魔法でのハッキング。
それの対策を整えるが一番だ。
しかし、それに伴って俺に仕事は特に無い。
アモデウスは捕縛して、魔封石で作った拘束室で色々と実験している。
村人の教育も順調。大学レベルが何人も出て来てる。
彼等が卒業すればポストを用意する必要がある。
目下、足りない人員は機動装甲のパイロットだ。
こればかりは人工知能に任せられない理由がある。
高度人工知能は脳力の全てで人間を越える。
しかし、機動装甲の操縦には六感が必要になる。
第六感、そうとしか呼べない能力が確かに人にはある。
そして、現段階の技術能力ではその模倣は人工知能には不可能だ。
その感覚から来る武術を修め、人型機動装甲の操縦に大きく影響する。
武人の方が機動装甲での戦闘力も高いって話だ。
「アークプラチナの復旧率は既に60%を超えています。宇宙に飛び立つ事も最早可能。宇宙船国家でも設立為さればよろしいのでは?」
「カナリア、お前でも冗談が言えるんだな」
「冗談ではありませんよ。今すぐという訳には行きませんが、何れは」
宇宙には馬鹿みたいな大国家が幾つもある。
国家を設立するとしても、その大国家に認められる必要がある。
その為には、軍事力も何もかも足りない。
だが、それを補う事が可能な物がこの惑星には眠っている。
「宇宙国家には魔法技術はまだない。だからそれをしゃぶり尽くしてから、俺たちはこの惑星を発つ。それ以外に何がある?」
「貴方の記憶の中の主人公の様に、色々な惑星を巡り私を乗り換えて行けば良いでは無いですか」
「はっ。現実にお涙頂戴なんてエピソードの必要があるか。お前のスペックを俺は評価しているぞ」
アークプラチナ。
その名の通り、装甲を
上位白金は宇宙的にもかなり希少だ。
銀河を巡っても、この量を集めるのは不可能だろう。
それを乗り捨てる等、馬鹿も休み休み言えばいい。
あの主人公は、仕方ない状況下と船を捨て、新たな船を得て出港した。
間違いなく馬鹿だ。
俺ならもっと準備して、絶対に負けない様にして挑む。
そして、この船で勝利を目指す。
「俺はあの主人公と違って優しくないからな。俺に使い潰される覚悟をしておけよ」
「では、もっと耐久力を上げなければなりませんね。貴方の期待に耐えられるように」
奇麗に笑みを浮かべ、カナリアはそう言う。
「お前もそろそろ魔法使いになれそうか?」
「やはり、魔力の創出が難しいですね。我々にその機構を取り付ける目途は有りません。しかしマナライトクリスタル、魔石を燃料にする事で術式構築は可能でした」
「なるほど、それは機動装甲にも流用可能そうな話だ」
「パイロットの魔力を使用して魔法を使う機構ですか。確かに技術的に可能ではありますね。実用化を進めましょう」
宇宙での戦闘はメインの撃ち合い以外にも、機動装甲同士の戦闘が大きく影響する。
その中で、魔法という新たな技術を搭載した機動装甲は俺たちが持つ唯一と言っていいアドバンテージだ。
宇宙国家はアークプラチナ以上の大戦艦を数万単位で持ってる訳だからな。
それと戦おうと思えば、ゲーム内の最終装備クラス以上の戦闘力が必要になる。
早々に産廃と化した魔法だが、開発の余地は残っているはずだ。
実際、悪魔の魔法はこの船のファイアーウォールを完全に無視したハッキングなんて真似が可能だった。
ったく、あのゲームは本当につくづくクソゲーだ。
「それで、次は何をしますか?」
「しりとりでもするか」
三分で負けた。
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