第16話 将
アークプラチナが落下して一年半が経過した。
特に何かが起こる訳でもなく、適当に魔獣狩りと訓練を続ける毎日を送っていた。
そんな時、部屋にカナリアが現れる。
「旦那様、教育修了者が2名出ました」
村人の教育レベルなんて小学校以下だぞ。
それが1年で大学レベルまで行ったのか?
この船の教材能力が高いのか。
もしくはその2人が天才なのか。
「誰と誰だ?」
「ディアナとリラですね」
リラってまだ14とかじゃないのか?
ディアナ何て勉強始めてから半年くらいしか経ってないだろ。
どうやってんだ。
「ディアナ様は自身の希望でVRを利用した睡眠学習装置を使われていましたから」
「VRか。そんな物まであるんだな」
ゲームゲームと、馬鹿みたいに信じている訳じゃない。
この世界はボタン一つで必殺技を放てるゲームの世界じゃない。
実際、機動装甲の操縦には相当な鍛錬が必要だった。
魔法に関しても魔物を倒して経験値を貯めて、なんて事はする必要が無い。
いい加減、歴史的にも理解できた。
何が起きるか分からない。
ちゃんとここは現実だ。
「会われますか?」
「あぁ、ディアナには副官にすると約束したからな」
「旦那様、それでは私は何ですか?」
上目遣いでこくりと首を横に倒して、カナリアは俺にそう聞いて来た。
何だその仕草は。
なんか、人工知能キャバクラとか最強そうだよな。
まぁ、電気代しかかからない機械がやりたがるかは知らないが。
少し、この高度人工知能とやらを試してやろう。
「はぁ、お前は俺の妻……なんだろ?」
「…………旦那様もそう言う事を言えるのですね」
「今、ちょっとロード挟まなかったか?」
「いえ、人間の数万倍の思考能力を持つ私が言葉に詰まる事など在り得ません」
でも、今確かに間があったように感じたが。
「それよりも、旦那様に言いたい事があります」
言いたい事?
言うべき事ではなく?
それは何気にカナリアの始めて見る一面な気がする。
「申し訳ありませんでした」
「何をだ?」
「悪魔にハッキングされ、貴方を攻撃した事です」
「今更何を、半年も前の事だぞ? それにそれはお前のミスじゃない。機能的な欠陥だ」
人工知能は失敗しない。
所得可能な全ての情報を明確化し、その上で作戦を実行する。
心という取捨選択があるにしても、選択肢の全てが最適解と言って差支えの無い物だ。
だから、もしも失敗に見える様な事があったとしても、それはシステムの欠陥であってミスではない。
それがカナリアという存在だ。
「それでも私は謝罪したいのです。貴方に許しを請いたいと考えてしまう。今更になったのは、解決の伴わない謝罪には価値が無いと思ったからです」
「お前が居なければ俺は何もできない。許すも何もあるか」
「きっとそんな事はありませんよ。私が降る前から、貴方には力があった」
「人工知能ってのは褒めるのも機能に入ってんのか?」
「いいえ、我らはただ事実を述べるだけ。故に心からの言葉ですよ」
そう言うと同時に、船長室の扉が開く。
そこにはリラとディアナが居た。
「領主様、ご無沙汰しております」
「シェリフ様、必ずお役になって見せます」
リラとディアナは、見違えた仕草でそう言った。
リラなんて殆ど別人だ。
村娘の垢なんてどっか行ってる。
薄く化粧もされていて、雰囲気が全然違う。
「それで、戦闘訓練はどうなってる?」
「無論、致しましたわ」
「一通りは」
「それなら、どれくらい使えるか試してやる」
VRなんて都合のいい装置があるのなら、そこで戦えばいい。
実際、戦闘訓練は基本的にそこで行われていた訳だしな。
「旦那様、余り無理は為さらぬ様に」
カナリアが小声でそう言った。
「それは期待できそうだ」
「はぁ……」
カナリアが溜息を吐いた。
意味が分からない。
VR空間に入って30分。
そこには荒い呼吸を繰り返す2人の姿があった。
「強すぎますわ……魔法で身体強化してるはずですのに……」
「領主様凄い。一発も当てられなかった」
まぁまぁだな。
2対1で俺に一撃も当てられないのは問題だ。
しかし、30分持ったと考えれば上出来か?
そもそも2人は魔力開発を受けていない。
基本的に魔法の出力が違い過ぎる。
「まぁ、しかし技術ももう少しあった方がいいな」
「剣術も体術も2人はSランク判定ですよ。旦那様の実戦経験が豊富過ぎるだけでしょう」
そう言って近づいて来たのはカナリアだった。
「お前もVRに入れるのか」
「えぇ、勿論です。機能も実際の物を再現しておりますよ」
「だったら俺の不完全燃焼をどうにかしろ」
「畏まりました」
やはり、今の所真面に俺の相手をできるのはカナリアだけだな。
それから、2時間ほどカナリアと多少ダイナミックな組手をした。
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