第8話 返済


 俺には借金がある。

 金貨にして約2000枚。

 その商人が今日、俺の屋敷にやってくるという。


 問題は俺の屋敷から村が丸見えな事。

 あんな巨大な宇宙船があれば、見つからない訳がない。

 村も潰れてるしな。


「さて、どうした物か……」


 選択肢はある。

 殺す。

 取引する。

 全てを素直に話す。


 話すのは無いな。

 俺の様なクソ領主と取引するような男だ。

 基本的に悪人である。

 殺すのも角が立つ。


 商会としての規模は大きく、死んだら確実に調べられる。


「と言う訳で取引だ」


「はい?」


 俺の今の体重は65kg。

 ダイエットには完全に成功した。

 対して相手は90kgは優に越えそうな程、肥えている。

 勝った。


 ほくそ笑みながら、俺は机に金塊を10個程机に置く。

 盗賊たちが持っていた物だ。


「これは……」


 レーマン商会の商会長、ウスタ・レーマンは驚きの表情を浮かべていた。


「金貨に換算すると幾らになる?」


「そうですね、金貨5000枚程にはなるでしょうな」


 んな訳あるか。

 2万枚は余裕である。

 クソ商人が。


「それにしても、村にあるあれは何ですかな? というか村は無事なのでしょうか」


 こいつが俺に金を貸す目的は分かって居る。

 俺の領地で、金貨数千枚の借金を返済する事など不可能。

 であれば、と村人たちを奴隷として搾取する目論見なのだ。


 ゲームの時は宇宙船によって村が壊滅するのだから、その目論見は果たされなかったがな。


「ウスタ、悪いがお前と取引する事はもう無い。この金塊は借金の返済と口止め料だ。あの村の事は誰にも喋るな。喋る様なら殺す」


 悪いが、今あれの事が国にバレる訳にはいかない。

 まだ宇宙船の機能が回復しきって居ないからだ。

 宇宙まで逃げられるのなら何も問題無いのだが、その機能が復旧するのに後一月はかかる。


「それはまた……辺境の貧乏貴族が大きく出た物ですね」


 そう言うと、ウスタの後ろの扉から彼の私兵たちが飛び出してくる。

 まぁ、この屋敷今俺しか居ないからな。

 侵入は容易かっただろう。


「お前こそ、商人風情が図に乗るなよ」


 人間を殺すなんて、指一本で十分だ。

 少しだけアークプラチナ号の復旧が進んだ成果として、俺は3つ目の武器を所持していた。


 光線銃。

 まぁ、アークプラチナ号の科学力はこの程度では無いけどな。

 今はこれで我慢してやる。


 引き金を引くと、光速に等しい速度で銃弾が放たれる。

 それは私兵の一人にぶつかり、その胴体に穴を開けた。


 それを四度、繰り返す。


「なっ、なんだ!? どうした立て! 幾ら払ってると思ってるんだ!」


「最近呪術を収めたんだよ。もし誰かにバラしたらお前も殺すぞ?」


 魔力を込めて殺気を飛ばす。

 ウスタの顔が青く染まる。

 汗が止まらない様子だ。


「それと貴族に反逆しようとした罰だ。賠償金は金貨7000枚でいいぞ」


「な、そんな法外な……」


「ふざけるなよ。俺の命の値段がもっと安いとでも言うつもりか?」


「い、いえ……その様な……事は……」


「じゃあこの金塊が金貨5000枚分らしいから、借金返済とこの金塊を返して貰うって事で手を打とう。ほら、帰っていいぞ」


 顎で指示する。


「ヒィィイイイイ!」


 と、馬の様に鳴きながらウスタは走り去っていった。


 残ったのは死体が5つ。

 アークプラチナ号に賊の死体を持ち帰るのは気が引けたが、この死体なら、まぁ何かしらの実験の素体にはなるだろう。


 まぁ、これで当分の時間稼ぎはできる。

 王都からはるばるこんな辺境にやって来るのは、あの商人くらいだしな。


 船内の問題に着手して行こう。

 マナライトクリスタルは俺も集めてはいるが、やはり必要数を集めるには人手が居る。


 しかし、AI系の兵団は魔法に対する対抗手段を持っていない。

 これだと、少し手間取るだろう。

 村人が育てば、軍事訓練も行えるが最短の奴でも高校レベルまでしか行ってないしな。


 やはり、人口を増やすのは急務だろう。


 アークプラチナ号に戻った俺は、カナリアにそんな考えを話した。


「人口という面でしたら、先日盗賊団のアジトから救助した女性が居ります。治療は済んでおります。メンタルケアの方も、記憶処理を施す事で順調に回復しております」


「なら、もっと盗賊団を潰して回れば人口は増えるか?」


「盗賊団に幽閉されているのは基本的に女性ですが、それでよろしいのでしたら」


「関係ないだろ。銃でもパワードスーツでも着せれば女も男も一緒だ」


 科学ってのは、人々の資質の差を埋める為の物だ。

 それに、この惑星の住民ならすべからず魔法が使える。

 人工知能には持てない力だ。

 だったら、優秀な方を育てるのは当然の事。


「それと、魔法を機械で再現するのはやはり無理なのか?」


「マナライトクリスタルの何らかの作用が影響している事は分かって居るのですが……それ以降の研究成果は乏しく……」


 カナリアにも分からない事があるらしい。

 いつも自信有り気なこいつが申し訳なさそうに頭を下げている。


「未知へのアクセスなんてそんなもんだ。気長にやってくれ」


 何となく、カナリアの頭に手を置いてそう言う。


「この身体には夜伽の機能も備わっておりますが……」


「んな事誰も言ってねぇだろ!」


 こいつはやはりアホなのかもしれない。

 そう思いながら、俺は医務室に移動する。


 患者用のベットには女たちが寝かされている。

 盗賊団のアジトを5つ程潰し、救助した女の数は30人程だ。


 王都に戻られて、この船の事を吹聴されるのは不味い。

 かと言って、本人の意思を無視してここに縛り付ける訳にもいかない。

 さて、この女共をどう説得した物か……


「貴方こそが、我が主で有らせられるのですね」


 ベットから飛び起きた女が、俺にそう言った。


 はい?


「おぉ、神よ。救いに感謝します」


 そう言って俺に祈り始めた。

 それに追従する様に、他の奴らも俺を拝む。

 なんだこいつら。


「我々ザダーケルス宗派、貴方様に忠誠を誓います」


 ザダーケルス、ゲームで聞いたことあるな。


 そうだ邪神の名前だ。


 って事は、こいつら邪教徒かよ……!

 ヤバい奴ら助けちまった。

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