第9話 信仰


『剣術道場レベル80×3』

『スタート』


 アナウンスと同時に、外壁の格納部から3体のアンドロイドが出現する。

 3体とも、手には木刀が握られている。

 それは俺も同様で、構図としては俺対3体のロボットだ。


 一定の速度を持った木刀が身体の何処かに命中した時点で敗北。

 ルールはそれだけ。

 より実践的な物になっている。


 俺は貴族だ。

 しかし、私兵と呼べる存在をほぼ持っていない。

 理由は金が無いから。


 それと俺の領地を狙ってくるような奴は居ないから。

 魔族の侵攻なんて一度も無かった。

 盗賊団だって俺の村には手を出さない。


 理由は簡単。

 脅威がなく、旨味も無く、王都から騎士が派遣される可能性があるから。

 盗賊ってのも案外賢い者が多い。


 だが、今はそうも言ってられない。

 この船という狙われる理由がある。

 無論、現代兵器レベルの兵装は使えるから負ける気はない。


 しかし、この世界の魔法、魔族の固有術式を持ってこられれば耐えきれると断言できない。


 ならば、少しでも魔法への対抗策の強化を。

 つまり、俺のレベルアップが必要不可欠だ。


 デバイスは使わない。

 己の制御力だけで魔法を使いつつ、脅威を退ける。


 魔力による身体強化。

 魔力による視覚強化。

 そして、魔法による遠距離攻撃。


 全てを組み合わせ、俺は何でもできる様になる。


 私兵が無いのなら、俺が一個師団並みの兵力になればいい。


「三重詠唱」


 俺にできる限界数。

 それを維持するのが、この訓練の目的だ。


 俺に剣術の心得は無い。

 通信教育で習ってはいるが、魔法を組み合わせた戦闘を考えれば我流に落ち着くのは必然だ。


「ッチ」


 だが、相手はレベル80の人工知能剣士。

 身体能力に関しても、アンドロイドの身体は常人をはるかに超える出力を持っている。


 技量。

 読み。

 見切り。


 そんな差があり過ぎる。


「フレアドライブ」


 全ての詠唱枠を身体強化に回す。

 これが俺の全力近接戦闘。

 フレアドライブは、俺の肉体の熱量を高め、全ての行動を加速させる。

 代わりに負荷は絶大だ。


「ッラァ!」


 大げさに薙ぎ払い、大げさにバックステップで避ける。

 身体能力に差があると、この戦術が案外強い。

 しかし、相手も間合いの取り方が絶妙だ。

 俺のMAXスピードをもう学習したらしい。


 だったら、熱を上げるまで。

 熱量を上げれば、それだけ加速率が上がる。

 その間合いじゃ、もう避け切れないぞ。


「ッシィ!」


 そのまま返す刀で、2体のアンドロイドに飛び掛かり斬り飛ばす。


『クリアタイム 10分02秒』


 木刀がロボットに命中し、その装甲を切断する。

 木刀で金属って斬れるんだな。


「旦那様、レアメタル製のアンドロイドを無駄に破壊するのはお止め下さい」


 カナリアにそう叱られた。

 しかし、そう言いながらタオルを持ってきてくれるのだから、いい奴なんだろう。


「そうか、悪かったな」


 そう言ってタオルを受け取ろうとすると、カナリアを押しのける様に女が飛び出してくる。


「我が主よ。どうぞ!」


 そう言ったのは先日、盗賊団のアジトから助け出した邪教徒の女だ。

 名前をディアナと言うらしい。

 黒い修道服に身を包む、桃髪の女。


「さんきゅ」


 タオルを受け取り汗を拭う。

 やはり、フレアドライブは最終手段だな。

 スタミナの消費がヤバい。

 それに限界時間と熱量限界もある。

 修行が足りないな。


「カナリア、今の俺の戦力はどれくらいだ?」


「レベル100剣士と同等程ですね。ただデバイス等の装備品込みなら、レベル200相当は有りそうです」


 剣道場システムの剣士レベルは、レベルが上がる程装備が高ランクになっていく。

 それをぶっ壊すには、相応の強化魔法が必要になる訳だ。


「旦那様、また破壊しようとしてませんか?」


「してないって。それで魔法研究は進んでるのか?」


「凡その理論構築は完了しました。しかし、やはり私達アンドロイドに魔法を使う機能を搭載するのは当分無理かと」


「不可能と結論付けられないならいい」


「あ、我が主! 私魔法も使えますよ」


 カナリアに邪険な視線を送っていたディアナが、ここぞとばかりにそう主張する。


「そうか。ちょうどいいから村人に魔法を教えてやってくれ」


 ここを出るにしても、俺に着いてくるにしても魔法の技術があって損はない。


「それは他の女性に任せて、私はシェリフ様に禁術のご指導とかどうでしょう?」


「禁術?」


「えぇ、ザダーケルス宗派に伝わる悪魔召喚を私は会得しております」


「悪魔か……強いのか?」


「魔族の固有術式にすら遅れは取りませんわ。しかし悪魔は召喚の度に対価を要求してきます。それに人間の依り代も必要ですわね」


 興味深い。

 もし依り代が機械で代用できるなら……


「カナリア、ディアナに協力して術を解析しろ。可能なら悪魔を拘束して実験対象にする」


「は?」


「了解しました。では行きましょうか、ディアナ様」


「ちょっ、私はシェリフ様に……」


 俺の言葉に焦ったようにディアナが反応する。

 何か変な事を言っただろうか。


「シェリフ様、このカナリアさんはシェリフ様の奥方と聞いております」


 違うけど。


「まぁそうだ」


「意見させていただけるのなら、贔屓ではなく能力で評価して頂く事を期待しますわ」


 能力?

 機能を考えればカナリアは俺何て余裕で越える存在だ。

 俺は純粋な疑問の言葉を口にする他なかった。


 それが間違いだった。

 まさか、あんな事になるとは……


「お前、カナリアより自分が優れてると思ってるのか? カナリア、どう思う?」


「魔法に関する技術は評価に値しますが、それは研究対象としての興味であって戦力が驚異という意味ではありません」


「だそうだ。協力してくれるならカナリアと行ってくれ」


「は、はぁあ!? いいですわ、だったら勝負です! 私が勝ったら第一婦人にして頂きます!」


 何言ってんだこいつ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る