第6話 技術革新


 食料の備蓄は十分。

 畑の栽培をこの惑星の人間に適した物に入れ替える事で、対応は可能だった。


 村人には勉強をして貰っている。

 正直、今の村人の知能指数は中世レベルだ。

 この宇宙船には、動画データで教材が残っている。

 それを村人に渡す事で学習させている。


 まぁ、本人の意欲が重要な事に変わりはない。

 実際、子供の方が大人より進んだ勉強をしているという事もある。


「ロージ、村人の様子はどうだ?」


 ロージは執事としての仕事を続けるらしい。

 俺にしてみれば、カナリアもアンドロイドたちも居るから必要ない。

 しかし、ロージ本人の希望だからな。


「はっ。村人85名の内、初等教育卒業者が42名、その内5名が中等教育も卒業しました」


 まだ宇宙船が墜落してから2カ月しかたっていない。

 大人なら元々小学生レベルの知識を持っていた奴もいるだろうが、半数も中等部レベルなら予想以上の成果だ。


 因みに、栄養不足以外の病気は全てアークプラチナの医療設備で完治させた。


「皆、この船内での生活にも慣れたようです」


「ふむ。なぁロージ、お前何歳だ?」


「先月78になりました」


 タキシードを着て、背筋を伸ばして立っているその姿は凛々しい。

 しかし、中身、内臓や骨は普通の人間と同じに老化しているハズだ。


「カナリア、若返りの手術は可能か?」


「脳と心臓以外への手術は可能です。しかし、心臓を入れ替えるとなると、少し物資や復旧率が足りておりません」


「ロージ、取り合えず身体を治せ。寿命も俺が伸ばしてやる」


「その必要はありません。我が老骨、自然の流れのまま寿命を迎えるまでシェリフ様にお仕えできるだけで満足でございます」


 そう言って、ロージは俺に一礼する。


「は? お前の満足など知るか。俺を満足させろ、執事だろうが。お前にはまだまだ働いて貰うぞ」


「…………畏まりました」


 俺はロージにハンカチを放り、宇宙船の外に出る。


「戦闘用アンドロイドは必要ですか?」


 後ろから付いて来たカナリアがそう聞いてくる。


「いいや、少し暴れたい気分だ」


「では、これを」


 そう言って、カナリアは俺にスマホの様なデバイスを手渡す。


「なんだこれは?」


「マジックデバイスと仮名致しました。魔法発動時の魔力回路の動きを精密にトレースし、理論上では無詠唱での魔法使用を可能とします」


「試作品の実験台に俺を使おうと?」


「効率重視です。船員の中で最も魔法に長けた人物は貴方ですから」


「ふっ……良いだろう」



 ◆



 魔法によって飛行し、荒れ果てた荒野に着地する。

 魔族領に片足踏み込んだこの場所には、強力な魔物が数多く生息している。


「デビルライガー……だったか」


 ゲーム内で登場した記憶はない。

 しかし、俺の領主としての知識の中にはこの辺の主だと記憶している。


 蝙蝠の羽を生やし、黒い魔力を纏うライオンの魔獣。

 サーベルタイガーの様な鋭い牙は、鋼鉄すら噛み砕くらしい。


「マジックデバイス起動」


『イエスマスター』


 音声認識によってデバイスが起動する。

 胸ポケットからセンサー付きのカメラが自動で敵をロックする。


 後は魔法名を言うだけで、魔力操作が自動的に行われる筈だ。

 こんな技術はゲームの時には存在しなかった。

 やはり、魔法にはまだ可能性がありそうだ。


「ライトニングランス」


 魔法名を入力してから、魔法が放たれるまでの時間は。

 凡そ0.002秒。


 魔力を電気変換し、最後にそれを魔力に置き換えて放つのだから、内部の魔力移動速度は雷と同速である。


 俺のライトニングランスの速度は大体100m3秒。

 有効射程は50m、射程は150。

 サイズは基本的な槍と同等。

 貫通力は厚さ2mmの鉄板3枚まで。


 しかし、デバイスで発動したライトニングランスは、その全ての性能が2倍近い物になっていた。


 そりゃそうだ。

 魔力の流れを精密管理して最適化しているのだから。

 人間という気分ムラのある生物が使う場合と、同じ制御率な訳がない。


「一撃か……」


 しかし、まだ不備は有りそうだ。


『エラー。機体破損』


 ハードウェア自体の耐久値が足りていない。

 一撃で粉々になりやがった。

 魔力をデバイス内部で循環してるから、材質を魔導率の低い物で作る必要がありそうだ。


「まぁ、報告は後でするとして……遊び相手になってくれよ」


 デビルライガーは群れで行動する。

 群れでの脅威こそが、本来の危険度ランクだ。


 わらわらと魔物が現れる。

 大型種、奇形種、属性変質種、色々いるな。


「カナリアへの手土産は多い方が良いだろう」


 生物の魔力量は魔核と呼ばれる体内器官の性能に依存する。

 食事内容で多少強くなるらしいが、そっちの研究は既に終わっている。


 この二ヵ月、適切な食事をとり続けた事で、俺の魔力量は20倍程までに強化された。

 そして俺はこの1年、魔力制御の腕だけを磨き続けて来た。

 出力はデバイスには負けるだろうが、魔力の遊びを自由に設定できるというのはかなりのアドバンテージである。


「ライトニングドライブ」


 俺のオリジナル術式。

 名を加速ドライブ

 属性を肉体に付与する事で、接触による属性ダメージを発生させ、更に身体機能を拡張する。


 まぁ、主人公の魔法をパクっただけだが。

 案外簡単だったな。


 こんな量の素材をは持ち帰れない。

 そう気が付いたのは、周りに死体をかなりの量転がした後だった。


 メイドにトラックで迎えに来てもらい、持ち帰った。

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