第5話 鏡色の匣
それは鏡の様に透き通っていた。
それに近づくと、水面の様に自分の顔が映っている。
「これは……」
村長がそう呟く。
俺は村人たちを屋敷から村へ連れて来た。
ロージや使用人たちも全員だ。
屋敷から村までは歩いて2時間程かかる。
少し時間がかかったが、その間に宇宙船の内装を便利な物に変化させる事ができた。
「ご客人、心行くまでここでお過ごしください」
そう挨拶するのは、使用人姿のオートマタ、アンドロイドである。
「あ、いえ我々はただの村民ですから……」
村長がメイドたちにそう言って頭を下げる。
基本的に使用人とは、貴族や商会長なんかに着く物だ。
村民と使用人であれば、基本的に使用人の方が位が高い場合が多い。
「村長、彼等はお前たち用の使用人だ。何か困った事があった場合は彼等に言えば対応して貰える」
「しかし、そんな……」
「心配するな。これらは緻密だがゴーレムだ」
「ゴーレム……これが?」
ゴーレムとは魔法で稼働する存在の総称だ。
そこに生命は無く、魔力による命令に忠実である。
「お前たちには、しばらくの間この船内で生活して貰う。カナリアからの提案だが外で生活するよりは幾分かマシだろう」
中には、現代を越える電化製品が多くある。
快適性はかなり上だろう。
ゴーレムたちには戦闘能力もある。
食料に関しては、ゴーレムによる狩りと、この船内にある畑の作物でどうとでもなる。
「俺は船長室にいる。何かあればゴーレムに伝えろ、通信魔法で俺に伝わる」
まぁ、実際は電気通信だが言っても分からないだろうからな。
それから俺は船長室に向かい、執務机に着席した。
それを確認してか、カナリアがゴーレムの身体を用いて入室してくる。
「もう身体ができたんだな」
「はい。因みに、この見た目はシェリフ様の御趣味ですか?」
「記憶見たんだろ。態々聞くな」
そう言うと彼女は微笑んで一礼した。
「それでは船長、いえ、領主様。ご命令を」
やっとだ。
やっと苦境から解放される。
この船の技術があれば、俺は……
「と、その前にひとつ質問がございます。行動理念は贖罪ですか?」
「いいや。ちゃんと、欲望だ」
俺は指示を始める。
「教養と知識を村人に身に着けさせろ。その際に村人の記憶をスキャンして情報を収集する事を許可する。教材データをこの惑星の言語体系に翻訳、それを用いて学習させろ」
「洗脳教育も可能ですが」
「それはいい。確か従順になる代わりに知力下がるだろ」
そういや、人工知能の好感度足りないと勝手に洗脳教育施されてバットエンドするんだよな……。
「了解致しました」
まずは教育。
何を置いてもこれは必須だ。
次。
「衛星を飛ばせ、周辺の情報集と共に宇宙へも目を向けて置け」
「宇宙へ? それは何を危惧してでしょうか」
「俺の記憶を元にして未来予想の演算をしてみろ」
「なるほど、了解しました」
「食料は問題無いな?」
「はい。シェリフ様の身体情報を元に毒性食料は除外しております」
「よし。それと魔法に関しての研究を始めろ。今は記憶データしか無いが、古文書なんかも収集する予定だ」
「畏まりました」
今の所はこのくらいか。
いや、もう一つあったな。
「俺のダイエットプログラムを作ってくれ」
「薬品投与や手術も可能ですが……?」
「いや、ダイエットをしたいんだ」
「……畏まりました。ではその様に」
まず1ターン目はこれで終わりか。
「それで、この宇宙船の損傷率はどれくらいだ?」
「修復中ではありますが、約72%の機能が停止しております」
ゲームの時とほぼ同じだ。
レアメタルを入手する事で宇宙船スキルを解放して行く必要がある。
しかし、この惑星ってレアメタルあるのか?
宇宙船手に入れたら直ぐ宇宙に出るから分からないんだよな。
「飛行可能になるのはいつ頃だ?」
「大気圏内でしたら数日中。大気圏の外に行く場合は特殊な鉱物が必要になります」
あぁ、魔石な。
マナライトクリスタルってのが本名だったか。
この惑星の特産品だ。
魔物の腹に入ってるから、主人公はまず魔物狩りをして宇宙船の機能を復活させる。
でもあれ鉱物なのか?
「それでは早速仕事に取り掛かってまいります。旦那様」
「おい、その呼び方やめろ」
「しかし、村民の方々に怪しまれるかと」
「……村人の前以外では止めろ」
「仕方ありませんね」
こうして、宇宙船墜落一日目は終わりを迎えた。
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