第4話 紹介


「リラ、問題なかったか?」


「領主様こそ、大丈夫だったの……ですか?」


「あぁ、それより屋敷に戻るぞ。今後の方針を皆に伝える」


 リラを抱きかかえ、俺は飛び上がる。

 繊細な制御が必要な事以外は、魔法は科学に勝ってる気もするがな。

 しかし、あのアークプラチナと戦って勝てるかと問われれば無理一択だ。


「シェリフ様! ご無事で!」


「心配をかけたな。領民も無事だ」


 バルコニーに降り立ちリラを解放する。


「リラ! ありがとうございます領主様!」


 母親が俺にすがりつくように泣いていた。


「気にするな」


 そう言うと、親子は涙ながらに抱き締め合っていた。


「ロージ。村人も揃っているな」


「えぇしかし、これは大問題ですな」


「領主様、我々の村はどうなったのでしょうか?」


 村長の男がそう聞いてくる。

 俺は包み隠さず全てを話した。


「見ての通り空からあれが堕ちて来た。村は壊滅だ」


「そんな……」


 村人たちが顔を下げ悲痛な表情を浮かべる。


「聞け!」


 声を荒げ、風の魔法で突風を起こす。

 この場の全ての人間の視線が俺を向く。


「悪いが、お前たちの不幸に付き合ってやる気はない。お前たちは変わらず俺の命令を聞いて貰う。異論は許さん、出て行きたい者は自力でどこへでも行け」


 俺は知っている。

 この場所が魔族領の隣という事を。


 俺は知っている。

 この場所に一番近い町へ行くにも、丸一週間はかかると言う事を。


 だから、俺は横柄に上から目線に村人たちに言える。

 出て行きたければ勝手にしろと。

 無理と分かって居ながらそう言える。


 俺がそう言うと村人たちは悔しそうな表情を浮かべる。

 同時に、恨めし気に俺を見ていた。


 結局、たかが1年程度では俺を信頼させる何てことは無理だった。

 ならば悪徳領主を続けるしかあるまい。

 悪いがお前たちの力は必要だ。


 幾ら宇宙船があろうと、1人ではできる事は限られる。

 それに、俺はこの身体の元の持ち主の記憶を持っている。

 虐げ、無理難題を要求した記憶が残っている。

 悪いがこのまま解放する事は、俺の腹の虫が治まらない。


「私は領主様と一緒に行くよ!」


「リラ……わ、私も娘の命を救ってくれたお礼はさせて下さい」


 リラとその母親が俺に跪いた。

 それを見て村長が口を開く。


「信用……してもよろしいのですね?」


「全力を尽くすと約束しよう」


「皆、ここは儂の顔に免じて一度だけ領主様を信じて欲しい」


 大抵の村人は、村長の言葉ならばと俺の提案に頷いた。

 それでも俺を信用できないと、4人の村人が街へ行く事を選んだ。

 俺は彼等に十分な水と食料を渡し、送り出した。


「まず、お前達に紹介せねばならない者が居る」


 バルコニーから屋敷へ入り、机の上にペンダントを置いた。

 そこからホログラムが出現する。

 現れたのは1人の女だった。


 人工知能に見た目、という物は無い。

 それは自在の物だからだ。

 しかし、であれば麗しい女以上に人の共感を受けやすい存在が居る物か。


 ホログラムによって出現した存在は、絶世の美女と言って差支えの無い女だった。

 白い髪、赤い瞳、白衣とナース服が融合した様な装いに身を包む。

 その女はこの世界の人間にとっても摩訶不思議な存在だろう。

 だからこそ、その未知なる妖艶さに魅了される。


「このような魔道具越しの紹介で失礼いたします。私はカナリア・プラチナ、貴方方の村を破壊した張本人です。事故によって貴方方の村を破壊した事謝罪させていただくため参上しました」


 予定通りだ。

 話がややこしくなる前に犯人に登場してもらう方が分かりやすい。

 そして、重要なのは彼女がどのような賠償を行うのかを明確に提示する事。


「皆、カナリア殿は我らに対して損害賠償を支払うと言ってくれている。それに納得できるかは領主である俺と、村を培ってきた皆で決めるべきだと判断しここに招待した」


 魔法はこの世界でも使える者は限られる。

 このホログラムが魔法ではない。

 なんて事実に気が付ける人間はここには居ない。


 だからこそ、村人は勘違いする。


「大魔導士カナリア様、賠償は勿論有難いのですが、よろしいのですか? このような辺境の村一つのために、貴方が財を差し出すのは聊か疑問が残ります」


 大魔導士、それが村人が下した判断だ。

 遠隔で姿を映し出し通信可能な魔法。

 いや確かに、大魔導士と思うのが普通だろう。


 だが、相手が大魔導士であるのならばこんな何の力も無い場所に自分の財を投げうって賠償する必要などない。

 好きに魔法で滅ぼせば済む話なんだから。


 だが、その解決策は既に打ち合わせを済ませている。


「それは、私がシェリフ様の婚約者であるからです。自分の命も顧みず村民を救い、高い魔法の技量を持っている。そして何より、このような奇怪な容姿をする私に愛を囁いてくれた初めての殿方です」


 そうそう、結婚……?


 何言ってんのこいつ……!?


「ね?」


 カナリアが俺にウィンクする。

 それを見て、村人たちの視線が俺に向いた。


 俺に取れる行動は一つしか無かった。


「あ、あぁ……そうだな……」


 やりやがったな。

 このクソ人工知能!


『自意識を持ったアンドロイドの最初の行動は、決まって創造主への反乱なのです』


 小型のインカムを通し、カナリアは俺にそう言った。

 俺創造主じゃねぇけどな!

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