第2話 墜落
スペースドライバーというゲームがある。
その第一惑星。
そこはなぜか、魔法惑星ファンタジアと呼ばれる魔法の発展した惑星だった。
主人公はファンタジアの住人の一人で、ひょんなことから墜落した宇宙船を発見する。
そうして、宇宙の大海原へ冒険を始めるのだ。
俺も詳しい訳では無いが、一応クリアまではプレイした。
世界観がぶっ飛んでいる事、そしてゲームバランスが壊滅的な事を除けば良ゲーと言って差し支えない。
しかし、宇宙怪獣やらアカシックレコードの守護者とかいうクソモブが最強過ぎて笑えなかった。
倒した後手に入る報酬のレアリティを考えれば、確かに妥当な難易度かもしれないが、エンカウントが全宇宙でランダムとかふざけてんのかって話だ。
それにストーリーの流れも終わってる。
まずは主人公の育成。
この魔法惑星で生き抜くために、魔法を使えるようにする必要がある。
しかし、その魔法は後半ではほとんど使われない。
どころか、宇宙船を手に入れてからテクノロジーがインフレし、魔法の席は存在しない。
回復魔法? 近未来の医療技術の圧勝です。
転移魔法? コストを考えれば電力で行った方が安上がりだ。
攻撃魔法? 人殺しに必要なのは、弾速と射程だぞ。ミサイル最強!
まぁ、それだけでは無いが、魔法は科学よりも圧倒的に劣る物。
そう言う認識でオーケーだ。
そして俺、シェリフ・スタン・アルレイシャは、このゲームに置いて悪逆非道な政略を行い主人公に断罪される悪徳領主に他ならない。
しかし、現実的にゲームの世界の登場人物に転生する、何てことが起こるのだろうか。
俺はずっと不安だった。
魔法を見ても、見知ったキャラクターを見ても、自分の顔を嫌と言うほど見ても。
不安は消えなかった。
もしも何かがゲームと違えば。
気まぐれな乱数が、俺の不利に動いたら。
俺には破滅の運命しか待っていないのだから。
だからこそ、俺はようやく安堵した。
「あぁ、良かった」
やっとだ。
やっと俺は、不安から解放される。
徐々に巨大になっていく青い塊。
天を覆う程の巨体であり、一つの都市程もありそうな超質量。
それが、俺の領地内にある街に落下している。
「俺の予想は正しかった。俺は確かにあのゲームの世界に転生したんだ」
1年間、毎日が辛かった。
村民が俺に向ける怒りの目。
誰もが自分を無能と決めつける失望の目。
俺は何もしていない!
勝手にこの身体に入っただけなんだ!
そう叫びたかった。
けれど、そんな狂言が受け入れられない事など考えずとも分かる。
1年、長かった。
魔法を学び、歴史を学び、少しでも村民からのイメージを回復しようと努力した。
ダイエットもした。
今は体重73kg。最初より20kg以上痩せたんだから誉めて欲しい。
「ご主人様、これは一体……」
空を見上げながらロージがそう呟いた。
他の皆も口をパクパクと動かしながら空を見ていた。
己が育った村に、今宇宙船が落下しようとしているのだ。
それを止める事などもはや不可能。
いや、この惑星に存在するどんな魔法を用いてもアレの落下はきっと止められない。
「ロージ、村人は全員屋敷に居るな?」
「は、はい! その筈です」
よし、これで俺はこの惑星の覇者になれる。
大宇宙の冒険? ハッ、誰がするか!
俺はあれを手に入れて悠々自適に生きるんだ!
「ま、待って! まだあの村には私の子供が!」
1人の女がそう叫びながらバルコニーに出て来た。
「なに? どういう事だロージ!?」
「そんな筈は……名簿は全て照合した筈、まさか……」
「税金が高くなるから、報告してなかったんです」
「ッチ! 馬鹿が!」
俺は即座に魔法を使う。
風の魔法。
「ウィンドドライブ」
風を纏い飛行し、速度を速める。
女の顔は憶えている。
その女の家の場所も把握している。
急げば間に合う。
俺の足と魔法なら!
「シェリフ様!?」
「ロージ、村に誰も近づけるな! 俺に任せろ!」
「……はっ! 必ずその命、完遂致します!」
逞しくなられて、等とハンカチを目尻に当てながら言うロージを無視し、俺は全速力で村に向かう。
ゲーム時代、領主が住んでいた屋敷は多少の損壊はあっても無事だった。
しかし、村は壊滅したという情報もNPCが話していたのを憶えている。
懐中時計を取り出す。
12:35分。1日の時間は地球とほぼ同じ。
そして、宇宙船が落下する時刻はピッタリ1時。
つまり、残り時間は25分。
「間に合えよっ!」
そう願いながら、俺は村に向かった。
◆
私はドジだ。
いつも村の皆から可哀想って言われる。
お母さんから、領主様が来たら見つからない様にしなさいって言われてるのに、いつも話しかけられるから。
飯は食べているか? と聞かれる。
お母さんに、領主様に反抗してはいけないと、言われてるから私は「はい」と笑いながら答える。
今日は村の皆は領主様に呼ばれて、お屋敷に向かった。
残っているのは私だけ。
そんな時、空に青い勾玉が浮かんでいるのに気がついた。
変なの。
その青い勾玉の様な光は、時間が立つほどに大きくなっていった。
少しづつ赤く、いやオレンジ色になっていくのが見える。
それを眺めていると、外から声が聞こえて来た。
「おい! 誰かいるか! 出て来い!」
それは紛れもなく領主様の声だった。
私は急いで隠れる。
家の地下に掘った隠れ場所。
お母さんと私しか知らない場所。
そこなら安心ってお母さんが言ってたから。
「返事をしろ! 何やってるんだ早く出て来い!」
焦った様子で領主様が外で叫んでいる。
「頼む! このままだとまずいんだ!」
出ちゃ駄目。
私は目と耳を塞いでその場に蹲った。
それから少し経った頃だった。
爆音が響く。
それと同時に、地下に居た筈の私に光が差し込んだ。
家が吹き飛ばされていた。
「ったく、こんな所に隠れやがって」
巨大な青と赤の勾玉が空に見える。
もう手を伸ばせば届きそうな程近い。
「まぁ、家事吹き飛ばされなくて良かったよ。吹き飛ばされてたら、俺が全力でキャッチしに行かなきゃいけないところだった」
そう言って、領主様は私を抱えた。
怖かった。
ゴブリンみたいな顔。オークの様なお腹。
まるでモンスターみたいな人だから。
「や、やめて!」
そう言いながら、私は領主様の頭を叩いた。
叩いて気が付く。
逆らっちゃ駄目って言われてるのに。
怒られる。
殴られる。
そう思ってぎゅっと目を瞑った。
「そのまま目ぇつぶってろ」
その言葉と同時に、体が浮くような感覚があった。
「ッチ、残り3分。屋敷まで戻るのは無理か」
そう言いながら、風が上から下に吹く。
私は恐る恐る目を開けた。
「奇麗……」
そう、言う他無かった。
空に有った勾玉の上に居た。
「上空2000mここならギリギリか。爆風だけなら何とでもなる。魔法も案外使えるな」
領主様が汗をぬぐいながらそう言っていた。
「助けてくれたの?」
青い勾玉は村に向かっている。
そのまま落ちれば村がどうなるか、私にも分かった。
「お前、飯食ってるって嘘だったんだな。嘘を吐いた罰として、明日からたらふく食わせてやる」
そう言った瞬間、鼓膜を突き破るような爆音が響き、閃光が目を覆った。
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