転生したらゲーム序盤で死ぬ悪徳領主だったけど、この領地って宇宙船が降って来る場所じゃん

水色の山葵/ズイ

第1話 悪徳領主


 その村を統べる領主は、酷く醜い姿をしていたという。


 これは、彼が行った悪行を書き記した物である。


 豚の様に肥えた腹、ゴブリンの様に醜悪な顔。

 それを併せ持った男は、まず領民の前で食事を行った。


 痩せた土地。

 高すぎる税。

 誰も真面な食事など何年もとれていなかった。

 そんな領民に見せつける様に、男は食事を貪った。


 そして、食いかけの肉を「施しだ」と言って村民に投げ捨てた。


 それだけではない。

 男は時折街に降りて来て、怯える村民に声を掛けた。


 幼い少女に「飯は食っているか」と皮肉を言う。

 幼い娘が「はい」と苦笑いで応えると、領主は「そうか」と残虐に笑った。


 領主は月に一度、村長の家に顔を見せる。

 理由は村民の中から、若い娘を選び奉公に呼び寄せる為だ。

 村長は赤色の涙を零し、毎月の生贄を決めたという。


 だが、これらは根底にある問題ではない。

 最もたる問題は、村民が自分の意志でここに来た訳では無いと言う事だ。


 魔族の領土と隣り合う枯れた土地。

 魔族に怯え、領主に怯えなければならない。

 そんな場所に来る者は居なかった。


 だから、領主は村人たちが元々生活していた村を焼き払った。

 行く当てもない村人たちは、この領地へやって来て、右も左も分からず開拓に従事する他に選択肢は存在しない。

 そんな状況がたった一人の男の「気分」によって生み出されたのだ。


 あぁ、誰でも良い。

 勇者よ、国王よ、神よ、誰かこの悪の領主を打倒してくれ。


 終





「なんっだこりゃああああああああああああああああああああああああ!!!」


 俺は叫んだ。

 部屋中に叫んだ。

 転がり回った。

 なんでこんな顔面ディス多いんだよ!?


 村人の献上品に紛れていた書物だ。

 内容を見るに誰かの嫌がらせなのだろう。


 しかし、書かれている内容が嘘しかない。


「ロージ! これはなんだ!」


 俺は急いで執事長の男を呼ぶ。

 タキシードを纏った70歳程の老骨だ。

 しかし、その道55年のプロである。


「恐らく、村人の誰かが旅の物書きに書いて貰った伝記でしょう」


「違う! 内容の話だ。俺はこんな事はしていないぞ!」


 誰が食いかけの食事を床にバラまいただ。

 俺はきちんとした配給を行っただけだ

 調理するのも面倒だろうからと、予め調理した物を村に届けている。

 しかし、断じて食いかけなどではない。


「そうですね。この1年、貴方様はかなりの変貌を見せました。180度変わったと言っても過言ではない。しかし、今までの悪行は直ぐに記憶から無くなりはしないでしょう。結果、貴方様の今の行動も何か裏のある物と写ってしまうのではないでしょうか」


「そう言う事か……クソ」


 実際、1年前まではクソ領主だったんだから仕方ない。

 しかし、まさか仲がいいと思っていたあの娘の笑みが苦笑いだったとは……

 何気にショックだ。


 村長にメイドを斡旋して貰ってるのは本当だ。

 しかしそれは女の食費をこっちで持ち、更に実家に仕送りさせる事で村の経済難を解決させる政略だ。


 生贄とはなんだ!

 三食食わせてるぞ!

 金もやってる!

 てか、俺はその為に借金までしてんだぞ!

 ただ、確かにメイドの俺を見る目は大体冷徹だったな……


「俺、良い領主じゃないのか?」


「いえ、この1年の実績は数居る貴族の中でもなかなかに手厚い援助であったかと」


「じゃあなんなんだ! この人気の無さは!」


「土地を含めた環境は最悪ですからね」


 くぅ……

 それは親父の仕業だ!

 その親父も十年も前に死んでやがる!


 前の村を焼き討ちにして、ここに村民を集め、無理な開拓を実行。

 そして、開拓が目的なのにも関わらず、なぜか重税を村人に敷いた。


 確かに親父がそれをやったのは事実。


「でも俺じゃないやん……!」


「しかし、よろしいのですか?」


「何がだ?」


「確かにこの1年、村人の生活は少しですが豊かになりました。未だ病死や餓死が絶えないのは事実ですが、死亡率は半分近くに減少しております」


「あぁ、政策の目的自体は達成できてる」


「しかし、政策のため商会や貴族への借金が嵩み、我が家の財政は酷い有様です。これでは来年の資金はもうありません」


「あぁ、それは大丈夫だ」


 何せ、この領地には明日、宇宙船が墜落してくる。


「何か考えがあるのは承知しております。しかし、私にまで内容を伏せられますとお手伝いが……」


「いや、言った所でお前に手伝える内容じゃない。それより明日のパーティーの準備はできてるか?」


「はい。村人全員をこの屋敷に集め食事を振舞う準備はできております」


「必ず、全ての村人を屋敷に集めろ。瀕死の病人も死にかけの爺さん婆さんも全員だ」


「しかし、これで本当に我が家の資金は底をつきますよ」


「そうだな。だがやれ」


 俺は転生者だ。

 1年前、この身体で目覚めた時全てを察した。

 この世界は俺が前世でプレイしたゲームの世界で間違いない。

 そして、その記憶によれば明日、俺の領地の村に宇宙船が墜落する。


 本来なら、3年後にアーティファクトとして主人公に発見され、宇宙を股に掛けた大冒険が始まる導入装置。


 それが、明日降って来る。


 本来の歴史では、既にこの領地の領主、つまり俺はこの領地を捨て王都に逃げている。


 だが、その場合、村人は隕石張りの速度で落下する宇宙船に直撃され全滅。


 俺自身も、主人公に悪事を断罪されて死ぬ事になる。


 そんな人生御免だね。


 ――悪いが、宇宙船は俺が手に入れる。


 俺は窓から空を見上げる。

 明日降り注ぐ、真っ青な星が輝いていた。

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