第942話 恐ろしい道化師と絶体絶命からの覚醒!

マンテ爺達が、屋敷に着くと、すでに道化師と騎士達との戦闘が始まっていた。


「大樹、初陣じゃぞ!あの奇妙なやつらだけを攻撃することは出来るかのぅ?」


「任せるでしゅ!氷槍アイススピアいくでしゅ」


騎士達に加勢しようと、マンテ爺が声をかけると、大樹は無数の氷槍アイススピアを出して道化師へ向けて放つ。すると、気付くのが遅れた道化師達の胸に突き刺さり動きを止める。いち早く気付いた道化師達は、危険と判断して、距離を取るように後ろに飛び退いた。


「やりおるのぅ!ワシも負けておれんわい!稲妻餐宴ブラックライトニングフェスティバル


マンテ爺は、大樹の魔法を見て触発されたように、得意技である無数の黒い稲妻を出す稲妻餐宴ブラックライトニングフェスティバルを残りの道化師へ向けて放った。

道化師達は、丸焦げになり動きを止めて、傷を負わされた騎士達は、安堵で力が抜けたのか、剣を杖代わりにして満身創痍な表情をした。


「マンテ爺殿、大樹様助かりました。ヘルミーナ様も、ご無事で何よりでござい......」


ルイス騎士団長が、すぐに近寄ってきてお礼を言う。しかし、次の瞬間動きを止めていたはずの道化師達が急に動き出して閃光を放つと大爆発が起きた。


「ごめんなさいでしゅ。みんな守れなかったでしゅ」


大樹は、咄嗟にシールドを張ってマンテ爺とヘルミーナとルイスを守ったのだが、いきなりのことで騎士団を守ることが出来なかった。


「気にするなというのはおかしな話しじゃが、大樹のお陰でワシ達は助かったぞい」


マンテ爺は、すぐさま大樹を庇う台詞を言うと、ヘルミーナも大樹に聞こえるくらいの小さな声でありがとうと言って頭を撫でた。

だが、ルイスは煙が晴れるにつれて騎士達の屍が目に入ると、呆然とした様子から泣き崩れるようにへたり込んだ。


「大樹もルイスも酷なことを言うがのぅ。今は、落ち込んどる場合ではない。ワシが、雷魔法でシールドを張っとる間に、屋敷の全員を集めるんじゃ!オレールの転移で逃げるぞい」


マンテ爺は、悲しい現状を理解しつつも、今の置かれた状況を冷静に判断して、道化師が侵入出来ないようにし、みんなを救い出すことを提案した。


「申し訳ございません!本来であれば、私達がどうにかしないといけないことだというのに......このような姿をノックス様に見られたら叱られてしまいますね。マンテ爺様、すぐに屋敷の者を連れて参ります。あと、大樹様......私達が不甲斐ないばかりに申し訳ございません」


ルイスは、指で涙を拭って立ち上がるとマンテ爺と大樹とヘルミーナに頭を下げて謝った。そして、自分のやるべき仕事に集中するために、頬を叩いて屋敷に向かう。


「大樹、辛いのはワシも同じじゃ!ここから無事逃げられたら、ワシと一緒に泣けばよい。今は、この屋敷を守るのが第一じゃ。ワシのシールドの上から重ねてくれんか?」


「うん。ごめんなさいでしゅ。すぐやるでしゅ」


マンテ爺は、普段見せないような辛い顔を大樹だけに見せて頭を撫でた。そして大樹は、泣き顔から一転してやる気の入った顔で前を向き、マンテ爺のシールドに重ね掛けをした。


「大樹、よくやったわい!これで、暫く保つじゃろう。なんじゃと......」


街を陥落させた道化師達が、ぞろぞろと屋敷にやってきた。はじめは、マンテ爺と大樹のシールドで動きを止めていた道化師達だったが、10体ほどをシールドの近くに残して、残りが離れた瞬間、10体の道化師は爆散した。そして、爆散した箇所を確認した道化師達は、無言のまま何度も10体の道化師を送り出して爆散するということを繰り返す。


「ヘルミーナにも謝らんといかんのぅ。赤ん坊に頼っておるワシらが情けないわい。申し訳ないわい」


「何を言っているの!それは、私の台詞よ。何も力になれない私が一番情けないわ。大樹、ごめんなさいね。あなただけは、何があっても守るわ」


100体もの犠牲を出したにも関わらず、厭わない自爆特攻をしてくる道化師達によって、シールドはあっさりと破られてしまった。そして、道化師達はニヤリと口角を上げながら、ぞろぞろとマンテ爺達に近付く。


「こ、これは......」


「うむ。ここまでのようじゃな。マンテ爺よ、ヘルミーナと大樹とノアとカレンを任せて良いかのぅ」


ルイスが、屋敷の全員を連れて戻ってくると、先程よりも絶望的な道化師の大軍が進行してきていた。そして、後ろから姿を見せたヨゼフは、諦めと覚悟を決めて次世代の者達とアレクの大事な妻であるヘルミーナをマンテ爺に託す言葉を言って剣を抜いた。


「うわぁぁぁぁぁ!僕はみんなを守りましゅ!もう、誰も死なせないでしゅ」


赤ん坊から発せられたとは思えない声を上げた大樹は、黄金の輝きを見せながらヘルミーナの胸から飛び出して上空に飛ぶと、大樹の体から無数の黄金に輝く何かが道化師達に降り注いだ。


「どうなっとるんじゃ!大樹も神の力を授かったというのか」


マンテ爺は、大樹からアレクと同じ力を感じて神力だと理解した。しかし、現状神も敵であり、誰が力を与えたのかは謎である。

だが、その神力は、見事に道化師を跡形もなく消し去った。


「大樹!?」


「大丈夫じゃ!ワシが、受け止めるわい」


道化師達を消し去った直後、力を使い果たした大樹は、上空から力なく落下した。ヘルミーナの叫びを聞いたマンテ爺は、ジャンプをして大樹を抱きかかえると、安否を確認するように大樹の顔を見た。


「なんじゃ。気持ち良さそうにしおって。すやすや寝ておるわい。ワシらを守るのに力を使い果たしたんじゃろ」


「大樹......無茶し過ぎだわ......」


ヘルミーナは、すやすや気持ち良さそうに眠る大樹を見て目頭に涙を浮かべながら一安心する。

その後は、珍しくぼろぼろの服で到着したオレールが転移で皆をまとめて避難をさせて、何とかアレクの大事な仲間は難を逃れることに成功するのだった。

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