第926話 他人の力を借りなかった男が、自ら薬を飲む!

デストロイは、全てを使い果たしたにも関わらず、平然と立ち上がった。


「お前、名前はなんて言うんだ?もし、この面倒くせぇ能力をお前一人で生み出したなら褒めてやる」


デストロイは、全てを神力で吹き飛ばして地獄の力は戻ったのだが、何故か地獄の力の容量がゼロになっていた。


「私の名ですか?なんだったのか......一人で家に籠もって研究をしている記憶はありますが、名は忘れてしまいました。申し訳ありません。あと、これは能力ではなく、呪文です。勿論、私一人で作り上げた物だ」


ローブの男は、人から何かに変わった影響で記憶が曖昧なのか?それ以外の要因があるのかは分からないが、研究以外の過去の記憶が抜け落ちているようだ。


「おもしれぇやつだな。生命力を媒介にするだけだと思っていたが、俺の力も媒介にしやがるとはな。人間の生命力如きで神力に耐えれるわけねぇからな」


「御名答!生命力を媒介に呪文を強化して貴方の素晴らしい力を拝借させて頂きました。相殺で全て使い果たしたのが勿体ないほどの力でした。フフフフフ、余計に貴方という人物が気になって仕方ありません。未知の力を頂きたい」


ローブの男の力に、デストロイは尊敬とまではいかないが、興味とローブの男を認め始めていた。


「お前に地獄の力も神力もやらねぇよ。そろそろ決着つけるか。簡単に死ぬんじゃねぇぞ」


デストロイは、最近傷を負うことがなかったので、なかなかお披露目する機会がなかったが、将軍時代に見せた超再生能力を使って体力を回復させた。


「素晴らしいです。どこに、それほどの力が残っていたのかわかりませんが、この程度の力ではかすり傷すら付けられません。早く、数カ所に閉じ込めた人々を助けない限り、私を殺すことはできない!今尚、人間達は刻一刻と死に近付いているのだから」


デストロイの神力でレイスを葬ることは出来たのだが、檻に遠隔で生命力を吸い出せる何かを施していたようで、今も尚ローブの男に生命力を媒介にした力が送られていた。


「ヲルガン、ドミニクと手分けして檻をぶっ壊せ!」


「はい!わかりました。ドミニクのあとを追います」


デストロイは、珍しく他人に頼るという行動に出た。それほどまでに、追い込まれた状況なのが窺える。


「よろしいのですか?私は、レイスを呼び出す力は、まだ残っている。その意味することがわかりますね?フフフフフ、私を殺すか、お仲間を助けるか、お任せ致します。では、私の子供達!あの二人を追いなさい」


10体のレイスが、ローブの男の前に姿を現すと、命令通りにヲルガンとドミニクが向かった方に飛んでいった。


「あいつらは、簡単にはしなねぇよ!それより、自分の心配をしたらどうだ?こんなもんを飲むとは思ってなかったが、この状況なら仕方ねぇか」


デストロイは、アレクから狂化強靭薬を出会った時から貰っていたが、一度も自分の意思で使うことはなかった。しかし、目の前のローブの男は、決して武力があるわけではないが、デストロイは自分にとって天敵だと判断したのだ。


「ぐぁぁぁぁ!こりゃ、力がない状態で意識を保つのは至難の業だな。アレクの力を借りてるようで癪だが、この溢れ出す力は気に入った。おい!行くぞ」


狂化強靭薬を飲んだ人間は、全身が真っ赤になり、意識を保つことが出来ないが、デストロイの体は肌色のまま、髪だけが赤くなるだけで表情は何ら普段と変わらない。

そして、行くぞと言った瞬間、もうローブの男の目の前におり、殴り飛ばしたあとハルバートをローブの男目掛けて投げた。


「踏み込みがいまいち足りねぇか。生身が久々過ぎて体が追いついてねぇな」


「痛いじゃないですか!って、ぐはぁ......」


ローブの男は、生命力を媒介に、またデストロイの攻撃を無効化したが、間髪入れずにデストロイが、瓦礫に埋めれたローブの男目掛けて蹴りを入れた。


「まぁまぁだな。あと一歩分早く溜めりゃいけるだろう」


デストロイは、体と脳からの伝達がズレていることに気付いてから修正を繰り返していた。どうやら、脳からの伝達よりも一歩分体の動きの方が早いようだ。


「まだ私が話して......ぐはぁ......はぁはぁはぁ、このままでは檻の中にいる人間達が死ぬ......ぐふぉ」


ローブの男が、檻に捕らわれた人はどうでもいいのかと発言しているが、デストロイは一切の迷いが消えたように連撃を与え続ける。


「どのみち、実験材料にされるなら、待つだけ損じゃねぇか!それに、そろそろ来たようだしな。お前は、おしまいだ」


「なんと狂った......ぎゃぁぁぁぁぁ!何故だ。何故腕が斬り落とされた」


「うるせぇ!もう寝てろ」


デストロイは、腕を斬り落とすと、勢いそのままにハルバートを振り回して首を刎ねたのだった。

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