鳴くような訴え

 俺はオスの蚊だ。オスだから血は吸わない。だがお前ら人間は馬鹿で無知だから、雌雄も見分けないで、


 「血を吸おうとしている!」


 と勘違いして、無闇やたらに手を叩いたり殺虫剤を撒いて殺そうとしてくるから、たまったもんじゃない。ただ飛んでいるだけなのに、俺らが一体何をしたっていうんだ!


 そもそも、ヒトの血を吸ったからと殺すメスの蚊達。彼女たちも普段はオスと同じく、木や花の蜜を食べて生きている。


 じゃ、何故血が必要になるのか?それは子供のためだ。子──つまり卵を産むための栄養が足りないから、仕方なく血を狙いにいってるんだよ。


 それをお前らは「不快だ」って理由だけで殺す。人間ってのはどうしてこうも残酷な思想の持ち主なんだ!


 俺の恋人だったメスも、お前らが殺した。きっと俺ら似の可愛い子が産まれると二匹で話し合ってたのに。蚊の寿命はお前ら人間と違って儚いが、その短くかけがえのないを勝手に終わらせられるほど人間ってのは立派なのか!?


 おい、聞いてんのか。俺みたいな悲劇に見舞われる仲間をこれ以上増やしたくないから、さっきからこうして、わざわざお前の耳元で直談判してるんだぜ。何か答えてみろよ、人間……。


 ──ぱちんっ。

 

 「あら、どうしたの?」

 「や、さっきから耳元で蚊の羽音がうっとおしかったけどね。やっと捕まえられたよ」

 「よかったわねぇ。私も昨日血を吸われて、一匹仕留めたのよ。この時期は蚊が多くてやあね。蚊取り線香でも焚こうかしら。

 ところでダーリン、今夜どう……」

 「あぁ、もちろんいいよハニー……」


 蚊の言葉は煩わしさしか生まず。結婚したての若夫婦はむず痒くなるような会話を交わし、熱く濃密な夜を楽しむのであった。

 

 但し、その隙に彼らが蚊に食われてしまったのは言わずもがなであるが。

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