ゲシュタルトの崩壊
唐突なのだが、あなたの知識にゲシュタルト崩壊というものは存在しているだろうか。例えば同じ漢字やひらがなを見続けると、その文字の形や書き方が分からなくなるというアレのことだ。
この現象についての私の当初の見解は、非常に懐疑的なものだった。
「このようなもの、何かの戯言のはずだ」
のっけからの否定は私の悪い癖だ。どのような事に対しても、全ての可能性を除いてはいけないのだ。
話の筋が逸れてしまったので戻す。とにかくこの認識のまま、私の人生は進んでしまった。しかし、その発言を今の私が聞いたら過去の私を罵るであろう。というのも現在の私の脳が、すでにゲシュタルト崩壊の影響を受けているのだ。
事の始まりは私の授業を取っている生徒、野崎の質問だった。
「野々村先生はゲシュタルト崩壊って知ってますか」
「知ってはいるが、そのようなものに私の脳は誤魔化されんよ」
「本当なのですか、では『の』を多量に使って文章を書いてみてください」
お気づきの方もいるのかも知れないのだが、野崎に言われ書き始めたこの文章の「の」の多さに私の心はうんざりしている。のらりくらりと書き出したが「の」の存在がある度、私の脳は「の」の知覚を歪めているのが分かる。もう私の頭の中の「の」の字は形と書き方は怪しいのである。そのはずは無いと抵抗の為、紙のメモに「の」の字を書こうとしたのだが「の」の字の最初の部分から脳が混乱するわ文字の形は崩れるわ、まともな「の」の字を書けないのだ。
読者の皆様には部分部分の漢字の変換を通しているので、「の」のゲシュタルト崩壊を起こしていないのかもしれないのだが、これまでの文字の打ち込む際の「の」の多さの凄まじいのを理解して欲しいのである。
試しに、これまでの「の」が含まれる漢字の表記をひらがなのみにしてみよう。のぞいて・ののしる・のう・かのうせい……「の」のオンパレードで気の狂いそうなこと狂いそうなこと。野崎め、お前の提案のせいで私の脳は今、混乱しているぞ。のうのうとゲシュタルト崩壊の否定をした私の責任もあるのにはあるのだが。
さて、あまりの「の」の字の多さに酔って来たのでこの辺りで今回の文章の〆とさせていただきたい。最後に私の名前を書いて終わりにしよう。せっかくなので、私の名前は平仮名の表記にして、皆様の脳にもゲシュタルトの崩壊を起こそうと思う。では。
ののむら ののすけ 著:ゲシュタルト「の」崩壊
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