平等な星
ある星に、宇宙船が不時着した。船に乗っていたのは地球人の男。彼は地球と別の星を行き来して、食糧を運ぶのが仕事だった。しかし、その仕事の最中に突如エンジントラブルが発生。船は推進力を失い、近くにあった重力が一段と強い星に引っ張られて、ついに地上まで落ちたというわけ。
「いやはや参った。ここは、一体どこの星なのだろう」
と言いはすれど、男はそこまでの焦りを見せていなかった。救難信号も出したし、救助船が来るまで持ち堪えるための食糧も、貨物室に過剰なほど積んであるのだ。
「待つ分には何も問題が無い。だが、迎えがいつ来るかもわからず、いつまでもじっとしているのは心によろしくない。少し、この星を見て周りでもするか」
そんなわけで、男は各計器をチェックしてから宇宙船を降りた。どうやらこの星の環境は地球に近いらしい。深呼吸すると空気がおいしく思える。彼は座り続けで固まった身体を伸ばし、そのまま何となく周りを見渡した。すると、丘の上に動く影があるのを見つけた。
「動物でもいるのかな」
のんきにそう考えていると、影はこちらへと向かってきた。やがて距離が縮まって、姿がハッキリとしてくると、それが二足歩行で、耳鼻が尖って頭部に二本の触覚を有する異星人であることが明確になった。
「どうも、この星の原住民らしいぞ。向こうもこっちと話したいようだし、翻訳機を持ってきて、会話でもしてみるか」
男は船に、小型翻訳機を取りに戻った。そして外へ戻ると、丁度向かってきた異星人が船の前に来たところだった。都合がいいと、彼は早速話しかけてみる。
「やぁ、こんにちは」
「こんにちは。私はこの星に住むものです。ここに、見慣れないものがあったので来ました。あなたは、これに乗って来られたのですか?」
「あぁ、そうだよ。遠い地球という星から来たんだ。だけど食糧を運んでいる途中で船が故障してしまってね、こうしてあなたたちの星に落ちてきてしまったのさ」
「そうなのですか」
異星人はまじまじと宇宙船を眺め、頷いた。
「だから、邪魔かもしれないがしばらくここにいるよ。救助は呼んだんだけれど、いつくるかもわからなくてね」
「なるほど、分かりました。それにしても、ここでずっと待つのは、お暇では無いですか」
「まぁ、正直言って暇だね。今もじっとしていられないから、船の外に出てきたんだよ」
「よろしければ、私たちの町をご案内しましょうか」
「えっいいのかい?それじゃあ、お言葉に甘えようかな」
こうして、男は彼らの町へと出向くことになった。異星人に連れられ、草原の丘を越える。道中気づいたことだが、この星の植物はかなり手入れされている。例えば、木はずらっと等間隔に配置され、枝の本数すら揃えられていて、見る分には気持ちがいい。ところどころに咲いている花だって、花弁の数や形が揃っている。はたしてどれだけの剪定や植え替えをすれば、こうなるのだろうか。
「ここにある植物は皆、手入れが行き届いているな」
「いえ、私たちは何もしておりません」
「じゃ、勝手にああなるのかい」
「そうです。この星は平等の星。全てのものが平等に生きていて、それだから植物達も平等な位置に、平等な形で生えてくるのです」
「へぇ、不思議な星なんだなあ」
話していると、ようやく町が見えてきた。そこでは四角の白い建物が、やはり等間隔で並んでいる。町民らしき異星人はいるが、案内してくれた異星人と顔が全く一緒。流石に子供と大人での体格差はあるようだが、それ以外は本当に、全てが平等のようである。
「こりゃ驚いた。姿まで平等なのか」
「ええ。そういう星なのです」
男は建物の内の一つに通された。見た目通りというべきか、内装もシンプル。置いてあるのは真っ白なテーブル、椅子、ベット、それと幾らかの食器があるだけだった。これを見て男は、異星人に聞く。
「なんと言うか、殺風景な部屋だ。あなたはここで住んでいて、嫌になったりしないのかい」
「しません。私たちにとって平等であることほど、大事なことはないのです」
「そういうものなのかねえ」
「そういうものなのです。今あなたは『ここで住んでいて』とおっしゃいましたが、別に私は、ここに住んでいるわけでは無いのです」
「そうなのか。では、ここは集会所になっているとかそういう……」
「違います。今日はここに私がいますが、昨日は別の者がいました。明日は、別の者が使うかもしれませんし、もしかしたら私がもう一度使うかもしれません。この町には私たちの数だけ建物があって、そのどれもが私たちの家であり、そうで無いのです」
「なんだかややこしいな。それだと、自分の家が欲しくならないのか?」
「いいえ。平等において、物を所有することはいけないのです。それだと、格差が生まれてしまいますから。この星にある物は全て、平等でないといけません」
「しかし、どうしても分けられない物もあるだろう?」
「その場合は、それを処分します。一つだけ特異な存在があっては、平等は成り立ちませんもの」
「徹底しているなぁ」
彼は質問を終えて感心した。が、ちょっとして悪い胸騒ぎがしてきた。
「すまない、用事を思い出したので帰らせてもらうよ」
「そうですか」
異星人の返事はそっけなかった。そのそっけなさが、男の心にさらなる揺さぶりをかけた。だがここで止まっている暇はない。彼は建物を出て、宇宙船が着陸している丘の向こうへと急ぐ。
丘を登り切って、船の方を見る。が、すでにそこに宇宙船は無かった。船のあった場所には異星人達が集まっていて、積んであった大量の食糧を皆で均等に分けている。
「おい、何をしてくれているんだ!俺の宇宙船をどこにやった!」
彼は涙を浮かべて怒鳴った。すると、背後から声が聞こえた。
「仕方ありませんよ。これも、平等のためですから」
そう言ってどこから取り出したのか、異星人は光線銃の照準を男の背中に合わせて引いた。突然の銃撃を男が躱せるはずもなく、彼は一瞬で煙へと蒸発してしまい、わずかに残った煙も、草原の風になびいて消えてしまったのだった。
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