風呂場での存在否定

 「女性は誰でも、お風呂が好きなんじゃないの?」


 そんな偏見を言われることがある。とんでもない、それは大きな間違い。少なくとも、私はお風呂が苦手。


 かといって、入浴自体が嫌なわけじゃない。髪が長くて洗いにくいからとか、体質的にのぼせやすいとか、そういうことでもなくて。


 問題なのは、髪を洗っている最中の背後の気配。泡で前が見えないのを良いことに、後ろから誰かが見つめているんじゃないかって不安になる。


 「そんな理由か。小学生くらいの頃、僕もそう思ってたな」


 大体の人は、そう笑い飛ばす。けど、私はいくつになっても怖い。もし、そこに人がいたら。そう考えたらキリがなくて、なかなか目を開けられず、疲れてしまう。


 「なら、シャンプーハットを買ってみたら?」


 この悩みを友人に打ち明けると、こう言われた。……シャンプーハット!なんでその存在に早く気づかなかったのだろう。


 早速、通販で購入。これで気兼ねなくお風呂に入れる!

 

 でも、やっぱり最初は勇気がいる。シャンプーハットを被っているのに、つい癖で目を閉じてしまった。


 (大丈夫よ。目を開けたら、そこには誰もいないから)


 私は心に何度も言い聞かせながら、暖かいシャワーを身体に当て続けた。そうすれば長年こびりついている不安が柔らかくふやけて、全て洗い流せる気がしたから。


 少し時間が経って、ようやく決心がついた。「誰もいない」、その自分の言葉を信じて、目を開ける。




 「……きゃっ!?」


 私は叫んだ。後ろに人がいたんじゃない、鏡には誰もいなかったんだ。誰も。


 ──そう、それは正面で髪を洗っているはずの、私の姿も含めて。

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