第38話 災害龍討伐
悪役令嬢は第二王子の説教をしおらしく聞いていたが、虚偽の予言をしたと言われたときには表情を変えた。
「そんな事はありえませんわ!」
悪役令嬢は捲し立てるように、災害龍が出現する時期と場所、被害が出る街についてゲームの知識を披露する。私も思わず頷きそうになった。悪役令嬢は私以上にゲームをやり込んでいたようだ。
「グザヴィエ、本当に災害龍は討伐されたのだな?」
「間違いありません」
第二王子は悪役令嬢の必死さを見て無視できなくなったらしい。これに関してはグザヴィエの証言だけで証拠がない。
「災害龍が討伐されたなら、隣国であるこの国にも素材が流れてくるはずですよね? 冒険者ギルドに行ってみませんか?」
私は悩み出した第二王子に提案した。
災害龍の素材は貴重であるため一般人には売ってくれないだろう。しかし、私はそれなりに冒険者ギルドに貢献しているので、こちらが知っていると匂わせば情報だけは開示してもらえるはずだ。欲しいと言えば売ってもくれそうだが、無理を言うほどの興味はない。
「わざわざギルドに行く必要もないのでは?」
グザヴィエはそう言って、何故かアランをチラリと見た。アランはその視線を受けて、小さく私に謝罪する。
なに?
「俺は討伐された災害龍の一部を所持しています。ここで出しても良いなら、今すぐにでもお見せしますよ」
え?
「やはり……アランさん、災害龍を討伐したのはあなたですね。鍛えている人間を一瞬で気絶させる強さを持つ『アラン』という男性が二人もいるとは思えない」
えっ!?
アランが驚く私を見て、申し訳なさそうに眉を下げる。
「詳しい素性は陛下に秘匿してもらいましたが、名前はよくある名なので気にしていませんでした」
「王太子殿下に密命を受けていたため、知っていただけですよ。名前を知るのも一部の者で、公表はされていませんので安心して下さい。勇者様、茶番に付き合わせて申し訳ありませんでした」
グザヴィエが王族を相手にするように
勇者……
貴族の対応に慣れていたり、投資について知っていたり、違和感のあったアランの言動の謎が解ける。
「その呼び方は好きではありませんが……謝罪は受け入れます。陛下にもお願いしましたが、国に帰ったらジャンヌが安心して暮らせるように事件に関わった者をきちんと裁いて下さい」
「必ず、そのようにいたします」
「よろしくお願いします」
アランはそう言うと、異空間バッグをゴソゴソと探り出す。ドカリと机の上に出された麻布に包まれていたのは……
「キャーーー!!」
悪役令嬢が悲鳴を上げて意識を失う。第二王子が慌てて支えていた。ただの肉の塊だが、公爵家のご令嬢には刺激が強かったらしい。
「災害龍の肉も食べられるんじゃないかと思ってもらって来たんだ。鱗は素材にもなるらしいぞ。他は扱いが難しそうだから、全部売ってしまった」
悪役令嬢の対応に追われる二人を横目に、アランが私に説明してくれる。
「色合いや脂肪の入り方は蛇肉に似ているかしら?」
「美味しそうだよな」
ゲーム内でも、被害にあった地域の人々にヒロインが振る舞っていた気がする。一生に一度食べられるかどうかという素材だ。手に入るなら、私も食べてみたい。
第二王子が異様なものを見るように、こちらを見ていたが気にしない。そんな軟弱な状態で災害龍を討伐しようと思っていたのだとすると呆れる。実践訓練をしていないのだろうか?
ただ、反応は別として、災害龍討伐の証拠としては有効だったようだ。第二王子はアランや私に対する非礼を謝罪し、アランには災害龍討伐のお礼も言ってくれた。
「時間を取らせて悪かった」
帰るというので気絶している二人を起こそうと思ったが、グザヴィエに煩くなるからと止められた。
第二王子は愛おしそうに悪役令嬢を抱き上げ、グザヴィエが騎士団長の息子を面倒くさそうに担いで去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます