第17話 別れ
ギルド長のブリスの好意で、旅の支度もギルドで手伝ってもらえることとなった。冒険者ギルドには武器から野営の道具まで売っていて、冒険者に必要な物は何でも揃う。数が多くなりそうなので、冒険者ギルドの倉庫に移動してお金の入金を知る受付のマリーとともに商品を選んでいく。
「一人用のテントと……」
私は孤児院に置いてある愛用の野営道具と同じものを一通り揃えていく。それを新たに購入した肩掛けバッグに放り込んだ。
口が大きく開くだけで容量が少なく見えるバッグだが、前から欲しかった異空間に物を収納できる異空間バッグだ。アランにプレゼントしようと思ったが、すぐに用意できる小型の物なら二個買えると分かったので自分の分も購入した。夢が叶ったのに何だか虚しい。
ガラガラガラ
私が買い忘れがないか確認していると、ブリスが倉庫に入ってきた。手にはアタッシュケースを抱えている。
「すぐに用意できるのは一千万までだな」
「十分です。助かります」
私は適当に確認しながらお金を受け取って、そのうちの百万を自分のバックに入れた。
ギルド内に貯金されている金額は、お金を下ろす際にギルド職員にどうしても見られてしまう。成人前の私が大金を持っていれば目立つ。ただでさえ特殊な能力を持っているので、それは避けたかった。
これだけ散財し一部を現金に換金しておけば、隣国に入ったときに冒険者カードに残る金額はそう多くはない。冒険者ランクがCで、治癒薬を卸せると分かれば納得してくれるだろう。
入金や出金の履歴は、ギルド内でもそれなりの権限がある人物しか見れないとブリスに確認済みだ。
残りの九百万をアラン用のバッグに詰めて、ブリスにアタッシュケースを返す。孤児院とアランに半分ずつ譲る予定だ。アランに渡す分が悪役執事からの逃走資金にならないことを祈る。
「どこの街に行くのかは決めているのか?」
「いいえ。隣国の事は分かりませんので、入国してから考えるつもりです」
「それなら、落ち着く場所が決まったら連絡しろ。その街のギルド長に俺宛だと言って手紙を渡してくれればここに届く。アランや院長宛の手紙があれば届けよう」
「ありがとうございます。何かあれば連絡させていただきます」
私は祖国に残していく人達に隣国での落ち着き先を知らせるつもりはない。連絡が来ないと心配されても困るので、そのことを遠回しに伝えておく。
「何年かして思い出したときでも構わないよ」
「すみません」
ブリスを呆れさせてしまった気がする。頑固者で申し訳ない。
そろそろ出発しようと思っていたが、マリーがいくつかの品を持って遠慮がちに近づいてくる。
「あの、ジャンヌちゃん。着火剤や火打ち石がリストになかったようだけど大丈夫?」
「着火剤……」
何年も使っていないので、頭からすっかり抜けていた。火に関わることはアランが……
「なぁ、本当にアランに会っていかないのか? 俺が協力すれば、気づかれないようにどうにか出来るぞ」
「良いんです。だって、会ったら……」
もしアランに会ったら泣きついてしまう気がする。
アラン宛の手紙にはブリスに話せなかった本当の事情と、危険があれば逃げるようにとの注意喚起を謝罪とともに記載した。アランは強いので危険を知っていれば執事たちに襲われても逃げ切れるはずだ。そうしているうちに人質には向かないと彼らも気づくだろう。
私が持ち歩いていた市場には出せない強すぎる治癒薬も、一本を残して全てアランに渡す鞄に詰めている。飲み込むことさえ出来れば、全ての怪我を一度に治せるようなものだ。元々アランに渡してあった分もあるので、躊躇なく使えるだろう。
私と一緒に来るよりは危険が少ない。
「心残りがあるなら、会ったほうが良いと思うぞ。無責任な事は言えないが、アランはどんな苦労をしてもジャンヌと一緒にいたいって言うぜ」
「アランの気持ちなんて知りません。私が嫌なんです」
一緒に国内を逃げ回る。心強いが何年も続く危険な旅に巻き込むわけにはいかない。アランが大切だからこそだ。
「そうか」
ブリスはまだ引き留めたそうにしていたが、明るいうちに出発したいと伝えると諦めて送り出してくれた。
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