§ 6ー5 2月19日 白き両翼
--神奈川県・横浜市近郊--
フフフフーン、フフフ、フフ〜♪
冷たい小雨が降る帰り道。2人傘を差し、彩は機嫌良さそうに鼻歌を
彩のお母さんの病室には今はついていかない。彩にそうしてほしいと言われたからだ。待っているときによく顔を合わせる看護士(上原夏生)の
薄雲が広がる空の
様子が変わったのは、彩の中で何かを変えたかったからなのだろう。世界が
おれはどうだろう? 決心はしたものの、今は前向きに生きれてるだろうか。彩といる時間は増えた。けど、それだけじゃないだろうか?
「ねぇ、どうしたの?」こちらを
「え、いや、別に」
「ふーん。あ! ねぇ、颯太。昔の約束覚えてる?」
「約束? んー……、あ! あれだ。野良猫のシロを先に捕まえたほうが、なんでも言うことを聞くってやつだ」
「違うよー。だいたいシロは近所の稲垣さんのお婆さんの飼い猫だったじゃん」
「あれ、そうだったっけ? んー……、他に約束かぁー」
「はい、時間切れぇー! 颯太は記憶力がないなー。ほら、私が歌って颯太がギターで
ハッとする。なんでそんな大事なことを忘れていたのだろう。それはギターを
過去の積み重ねが今なのに。
♦ ♦ ♦ ♦
小学6年のときにした彩との約束。ついムキになって
最初の目標は
そのうち、生の音をふさわしい場所で聞こう、とライブハウスに連れて行かれた。地下の薄暗い狭い空間に人が
…………
俺たちが高校1年の時、彩が交通事故にあった。おじさんが亡くなり、おばさんも彩も入院した。それは、それまで生きてきた中で一番辛い経験だった。幸い、彩はそれほど
彩は退院してからもどこか様子がおかしかった。しかし、
そんなとき、彩の心を治し、前向きにさせたのは学校に来ていたスクールカウンセラーの
だから思った。彩の力になれているカウンセラーの彼のように、自分もカウンセラーになればよいと。それからだ。心理学に興味を持つようになったのは。
ギターも心理学も、彩がいたから。喫茶ル・シャ・ブランを紹介したのも、成城紗良とのことも……。
紗良さんと別れてから解かったこと。それは、『本当に向き合う』ということ。
男と女、恋愛関係。それがどんなものか知らなかったから、
小学・中学時代に周りから彩との仲を
だからといって、紗良さんといい加減に付き合っていたわけではない。彼氏として、真剣に向き合っていた。いたつもりだった。心の奥には彩がいて『彩とならどうだろう』『彩ならこうしたら喜ぶかな』と無意識に考えていたことはあった。それで、本当に紗良さんと向き合えていたのか。今ではそれが別れた理由だと思っている。
今。今だから、今の彩と本気で向き合いたい。彼女の『今』に共にありたい。今現在の自分を形作っているのは、間違いなく過去から今に
だから、今。動くんだ!
♦ ♦ ♦ ♦
茜色が広がる空は、何かを察したのか泣くのをやめていた。雲の切れ目から溢れる
「雨止んだね〜」
「そうだな……」
傘を畳む彩を見て、足を止めて
「どうしたの?」
「あのさ、彩……。約束、守らせてくれないかな?」
「ん? 約束って?」
「さっき言ってた約束のこと。彩が歌って、オレがギターで
「えっ、……これから?」
「いや、そのための曲も場所も用意する。だから、一緒にやらないか! パンドラが衝突して、結果、世界が終わってしまうなら、約束を果たせるのは今しかないから!」
雲間から夕日が差し込む。その光のスポットライトの中、彩は空を見上げた。白い髪はほんのり熱を帯びて
「……急に真剣な顔するから何かと思ったよ。そっかぁ。そんな
キラキラしている。雨上がりの茜色は、水の
このとき解かったんだ。
ただ彩のことが好きだったんだ、てね。
…………
畳まれた傘を、プラン、プラン、と揺らしながら、
「ねぇ、颯太。私たち2人で歌うなら、ユニットの名前をつけなきゃだよ」
「名前? あー、そうだよな。考えてなかった」
「そういうところは昔から変わらないんだからー。ちゃんとしてくれるんじゃないのー?」
彩はにやけ顔でこちらを
「えーっと、わかった、わかったよ。ちゃんと考えるから」
「うん、よろしくね♪」
どんな名前にしようか? とりあえず、思いつくものを連想してみる。
彩・笑顔・白・光・闇・星・歌・音楽・ギター・
黒や暗いものは無しだ。今の彩に似合わない。似合うのは『白』。彩には自由に空を舞える鳥のような、いや、さっきの彩だと天使になるかな。天使? 輪っか? 輪っかはなんか死者を
「白い2つの翼。
「白い翼かぁ。ブランって、ル・シャ・ブランの『ブラン』と同じなの?」
「そうだよ。『ル・シャ・ブラン』は『白い猫』って意味だからね」
「そっかぁ。うーん……、なんかいいかも♪ 颯太は厨二病だから不安だったけどね」
「厨二病言うな! でも、気に入ったなら、この名前にしよっか?」
「うん♪ 私たち2人で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます