§ 3ー6 10月20日① 友情 ー変動ー
怒り。
怒りは感情の一種である。そもそも感情は単独で機能するものではなく、身体・思考・行動などと密接に関係して形成されている。体調や生活習慣の変化、生きてきた中で作り上げた信念や思考の揺らぎなど、感情の
オーストリアの精神科医であり心理学者のアルフレッド・アドラーは、怒りは感情の中で最も
怒りの二次感情は、まずは心に浮かび上がった一次感情によって生まれる。傷つき・寂しさ・悲しみ・心配・落胆……など、本人すら自覚しないネガティブな要因が怒りの一次感情になる。親が子を
怒りをコントロールするアンガーマネジメントとしては、怒りを表現する前に、その要因となる一次感情を意識することによって冷静になり、その要因を伝えるようにすることで良好な人間関係を保てるとしている。
怒り。その感情をぶつけるのは、その要因となる一次感情を相手に解ってもらいたいという過激なコミュニケーションになる。しかし、怒りの感情を持つことは悪いことではない。怒りは
怒り。それは人間である証明なのかもしれない。
♦ ♦ ♦ ♦
--神奈川県横浜・中華街--
土曜の夜ということもあり、みなとみらい線はいつもように混みあっていた。終点で電車を降り改札を出ると、赤のネオンと蒸料理の匂いがアジアの異文化を
中華街の入口である朝陽門を人波の一員となり通過する。中華まん・ショーロンポー・北京ダックロール・フカヒレスープ・いちご飴、列を
喫茶ル・シャ・ブランのメンバーたちははぐれないように目的の中華
「内定、取り消しになっちゃいましたよ」
3日前、閉店間際にそう笑いながら話をした匡毅の変化を店長は見逃さなかった。その後、店長はすぐに
当日、ル・シャ・ブランは閉店前に店長を残し、生田颯太・玉川匡毅・梅ヶ丘彩・喜多見蜜柑・栢山瑞稀・風祭浩一・東海林加奈の7人で向かうことになった。店長は閉店後に
ガラス窓越しに中を
4人掛けの2つのテーブルには、これでもかと料理が並んだ。蜜柑ちゃんと瑞稀ちゃんには烏龍茶、他のメンバーは生ビールのジョッキを手に、風祭さんが「ではでは、お疲れ様でーす♪ かんぱーい!」と
「パンドラって、結局どうなるんですかね?」
「この間来たお客さんがさぁ」
「今度の蜜柑ちゃんのシフォンケーキ、美味しそうよね」
各々、目の前の料理に
「ありがとう」「そうですね」「いいですね」懸命に
「紗良さん、今度TV出るらしいわよ」
加奈さんから不意に出た言葉。はっとしたようにこちらを一瞬見る。目が合ったことで
「ごめん、颯太くん。あんまり紗良さんの話は聞きたくないよね?」
「もう、大丈夫ですよ。気持ちの整理はついてるので」
「ホントに?」
「ホントですって。TVに出るってどういうことですか」
「うーん……颯太くんがそう言うなら言っちゃうけど、この前パートの帰りに駅で偶然、紗良さんに会ったのよ。そこで少し立ち話したんだけど、彼女、アナウンサー希望だったじゃない? このご時世で新人でも
成城紗良。元恋人で、突然振られた相手。こんな時に彼女の話を聞き、厳重に封をして閉じ込めておいた想いがざわつく。
「紗良……さんは元気そうでしたか?」
「んー、忙しそう感じだったけど、笑ってたし元気そうだったわね」
「そうですか。それならよかったです……」
何も良い訳ではなかったが、当たり
食事会が始まり、並べられた色彩豊かな料理を一通り味わった頃だった。口火を切ったのは瑞稀ちゃんの無邪気な一言だった。
「匡毅さんは、この先どうするんですか?」
蜜柑ちゃんの友達で、匡毅に
「……うーん、他の仕事探さないといけないんだけどな……」
「匡毅さんならすぐに見つかりますよ!」
「……ありがとう、瑞稀ちゃん」
精一杯の作り笑い。ジョッキを手に取り、3分の1程残ったビールを一気に喉に流し込む。目の前に取り分けられた料理にはほとんど手をつけていない。
「まぁ、ちょっとゆっくりしてから考えた方がいいんじゃないかな」と風祭さん。
「とりあえず、お腹いっぱい食べましょ」と加奈さん。
優しい気遣いの言の葉には、そのまま発した者の気持ちが込められていた。が、それを受け取る側の心情が
はぁ……。匡毅は作り笑いすら出来なくなり深い溜息を吐くと、ガタンと椅子から立ち上がる。
「先に……帰ります」
そう
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