§ 3ー4 10月14日 不安定な世界
--神奈川県・生田家--
こんなご時世だから、と不安になった母が何時にも増して真剣な顔で彩の様子を心配するので、しぶしぶ晩御飯も
食卓には1人多い分の椅子と1人分以上に多く用意されたおかずが並ぶ。鶏の唐揚げ、マグロやブリのお刺身、揚げ出し豆腐、ポテトサラダ、ほうれん草のお
TVでは各国の緊急経済対策や輸出制限、それによる物価の上昇と買い
「彩ちゃん、しばらく
「……ありがとうございます。でも、あまり自分の家を
「気を遣わないでも大丈夫なのよ? 彩ちゃんは家族も同然なんだから」
「そう言ってもらえるのは本当に嬉しいです。でも……」
食後。心配する母と「彩ちゃんも困ってるから」と
遊園地、旅行、川遊びに野球観戦。アルバムの写真には同じ場所で両家族が笑顔で
あの日は彩の所属していた吹奏楽部の発表会だった。曇り空は夕暮れ前に雨が降り出し、発表会を終えた彩が最寄り駅に着く頃には本降りになっていた。
彩の父・英之と学校の美術教師をしていた母・
駅のロータリーでフルートケースを大事に
ワイパーがせわしなく水を
体が浮くほどの衝撃と衝突音。ドンッと頭が何かにぶつかり意識が
交差点での大型トラックと乗用車の衝突事故。右から来たトラックは、乗用車の運転席にいた者の命を
彩の母は事故後、5年以上経つが未だに入院している。事故の
◆ ◆ ◆ ◆
ネガティブなニュースの過剰受信はストレスや不安を高め、精神を疲れさせる。アメリカのテキサス州の大学の研究では、ドゥームスクローリング(ネット上のネガティブなニュースを消費し続けること)の機会が多い人ほど、心身の健康状態が悪くなりやすいことが示されている。
ルードヴィヒ作戦による天体パンドラの地球衝突軌道の修正作戦が失敗したことにより、各国首脳や大企業・
自国防衛の輸出入の制限、エネルギー資源の確保、国民生活への
◆ ◆ ◆ ◆
夜の風が
「「…………」」
コツコツと足音が2つ。言葉が出ない代わりに歩調を合わせる。信号2つが青。3つ目はちょうど赤になり一緒に脚を止める。
「ねぇ、颯太……」
彩の声に顔を向ける。彼女の視線は正面のまま。
「ん? なに?」
「ホントに地球は衝突しちゃうのかな?」
「え? あー、パンドラのことか。うーん、ニュースでもネットでも
信号が青になり、また歩き出す。彩の顔の向きは変わらない。横断歩道を渡り切ったところでこちらに顔を向ける。
「……ホントに衝突してくれたら、楽になれるのかも……」
光無い瞳で微笑んで言ったセリフ。家での会話で彩の心が揺らいでいたのだろう。いつもは必死に隠しているのに……
一方、そんな弱音を吐いてしまう彼女に感情がざわついた。
「そんなこと言うなよ! ここまで頑張ってきたんだろ?」
「颯太……でも……」
「俺たちがいるだろ!? うちの父さんも母さんも凛も、彩を家族だと思ってるんだ。辛かったら言えよ!」
「うん……ごめん、ごめんね」
瞳が
「匡毅もいるだろ? 恋人なんだから頼りにしろよな」
「……うん」
静かに
歩幅を合わせてコツコツと足音をそろえて。
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