§ 3ー2 9月29日 日常のラストページ
欲しいものを手に入れられなかった時、あなたは苦しむでしょう。
欲しくないものを手に入れた時も、苦しむでしょう。
たとえ欲しいものを手に入れた時も、それを永遠に持ち続けることができないので、苦しむでしょう。
あなたの心は、変化のないことを望んでいます。
痛みがなく、義務がなく、死のない人生。
でも、変化とはつねに起こるもの。
その現実を無視することはできません。
ソクラテス(Socrates)
♦ ♦ ♦ ♦
新しい天体が見つかってから6ヶ月。
天体パンドラ。
世界中の多くの人の関心を寄せた新天体の発見。そして、その天体と地球との衝突予測発表。核ミサイルによるパンドラへの攻撃による軌道変更作戦。5か月にも及ぶ作戦は途中3割強を失いながら進み、遂に天体に7,000発近くの破壊兵器がパンドラの目前にまで達していた。
世界の命運がすぐそこまで来ている。それなのに多くの人々はそのことへの関心も不安も薄れていた。TVのニュース番組も、トピックスのトップは汚職政治家の
ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスは記憶と時間の相関を数値化しグラフ化した。無意味な音節を記憶し、時間とともにどれだけ忘れていくのかという実験では、人は20分後に42%、1時間後には56%、1日後には67%、1か月後には79%忘れてしまうという結果が示された。
記憶は都合の良いように改ざんされ、興味のないことは消えていく。嬉しいことも悲しいことも。
地球に
世界が変わるのは、将来への思いが
♦ ♦ ♦ ♦
--神奈川県・某大学大学祭--
9月も終わろうとする初秋。電車に乗るサラリーマンの半袖のYシャツは汗ばみ、薄手のブラウス姿の主婦は日焼け止めクリームを塗ることにすっかり慣れていた。秋とは名ばかりの真夏日を連日迎え、太陽はすっかり残業することが当たり前になってしまったようだ。
例年より短めの梅雨の後、ダムの貯水率を
「どうしましょー!? オサムさん!」
「うーん……」
腰に手を当て、頭を
「「「インポッシブル〜♪」」」
祭りにお似合いの色鮮やかな3バカトリオとルミ先輩が戻ってきた。
「やっぱりアイツらはダメっぽいよ」
「そっかー……困ったねー」
アイツら。久弥とてっちゃん。
学祭2日目の今日。我らが軽音楽部は野外のステージでライブすることになっている。
それは昨日キャンパス内をリハの後に回ったときに国際交流サークルの出店で食べたケバブに2人があたったのだ。その日の夜に症状が現れ、発熱腹痛ヨレヨレで今日は必死に大学まで来たものの、今はトイレの住人と化していた。
「おれと舞衣の2人だけでもライブに出させてください!」
「ん〜、それだとなー」
「舞衣が
「気持ちは分かるけどなー。舞衣はどうなんだ?」
「え! わ、わたしですか……えーっと、できるならやりたぃなぁって」
「そっか……んー、どんな形でもいいんだな?」
「はい!」
「よし、わかった! あー、ルミ、ちょっと来い」
小走りで
ウワーー!! キャーー♪
暑い炎天下の空の下、熱い歓声が一斉に上がる。舞衣の歌声がいつもより色づいている。キャンパス内の特設ライブ会場を超えて、久弥とてっちゃんが冷や汗を流しながら座っている木陰にいる小鳥さえリズムを取りながら聴き入っているようにさえ感じる。
この声こそが本来の舞衣の声なのでは? と一瞬
歌の中盤、サビ終わりに始まるギターソロ。オサムさんのアルペジオは、たった30分の練習と久弥が何度か弾いていた音を聞いただけなのに、曲自体をまったく別の印象に変えた。
空気を構成する分子が密になったかのように、1つ1つの音が多様な顔を見せながら鼓膜を必死に振動させる。舞衣の歌声が何者をも透き通り
それをルミ先輩のドラムが強調する。先ほどまでは、舞衣の透き通る歌声のアクセントとしてそっと寄り
ルミ先輩と目が合う。その目に『お前はお前の演奏をすればいいだけだよ』と言われた気がした。いつものように。すべての音の調和を意識する。
集まってくれている
そんな顔が見れるなら、このままも悪くないと反射的にふっと笑う。
光り輝く時間。さんさんと
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