CHAPTER.3 業の深い緋色(ゴウノフカイヒイロ)【天体衝突6ヶ月前(秋)】

§ 3ー1  モノローグ③  玉川匡毅



--玉川匡毅・夢の中--



 ヒラリヒラリ……


 舞い落ちる黄色。先が見えない一本道。街路樹が作る天然の絨毯じゅうたん。吹きすさぶ木枯こがらしが役目を終え旅立った1つ1つに寂しさをもたらし、身を寄せ合わせ、人が隠れられるほどの山をいたるところに形成する。


 濃緑のうりょくのジャケットが風にたなびく。肌寒さを含んだ気流が心をいつも以上に揺さぶる。枯れゆく世界の匂いに一瞬気を取られたところに、視界の端に彼女のぞうが結ばれる。焦点を向けるとその像はすでに拡散かくさんされていた。


 彼女の名を呼ぶ。しかし、振動は伝わらない。何度も何度も叫ぶが、伝わらない。何故か声が出ない。見渡しても街路樹と落ち葉の山と黄色い絨毯じゅうたんしか見えない。走り回ってみても景色に彼女は映らない。


 ガサガサガサガサ……


 落ち葉の中を何かが動く音。振り向くが落ち葉の山しかない。だが、他に手がかりもなく山になった落ち葉を両手でかき分ける。指に落ち葉ではない感触。そこには黒猫がデザインされたバレッタがあった。彼女が髪を束ねていたものと同じ。やっぱり彼女はいる。


 手当たり次第、落ち葉をかき分ける。くつかばん、ワンピースなど彼女と一緒にあったものばかり。そして、目についた一際ひときわ大きな落ち葉のかたまりを無我夢中にかき分ける。

 いた! 横たわる裸の彼女をついに見つけた。しかし、眠っているのか動かない。名前を呼びかけたくても声が出ない。肩を揺らしても反応がない。


 ガサガサ……


 そのとき、遠くで物音が聞こえた。視線を向ける。その視界には、見たことある男の人影が、落ち葉の中から彼女を見つけ出していた。彼女に上着をかけ、彼女をおぶって歩いていく。

 かたわらの横たわっていた彼女は無数のイチョウの葉となり形を失っていく。


『なんで!?』と思う一方、『やっぱりか……』と肩を落とす。



 もう何もないれた世界で途方に暮れる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る