第18話 堆積岩・ひつじ・摩擦係数・フローチャート・怪獣映画
俺はいわくつきの堆積岩を手に、思案していた。
見た目はごく普通の石で、大人の男性なら片手に収まる程度の大きさだ。
種類としては珪藻土に類するのだが、元になっているモノが本当に藻なのかは怪しいと思っている。
というのも、この堆積岩。実はひつじの頭から検出された。
自然に生きて、自然に死んだひつじだ。
なぜ、ただのひつじからこんなものが出てくるのか。
そもそも、本当にあれはひつじだったのだろうか。
これは本当に堆積岩なのか。
わからない。
「先輩! またその石見てるんですか?」
Nが近寄ってきた。
誰のせいで俺がこの無機物と向き合わなければいけないのかを思い出させてやりたい。
「お前がこんなものを持ち込んだせいでうちの部署であのひつじを扱うことになったんだろうが」
「そうですケド! でもその石おもしろいですよね!」
深く考えなければ確かにおもしろいと言えなくもない。
成分的にはただの堆積岩の筈なのに、異常な部分がある。
摩擦係数が異常に働くという点だ。
簡単に言えば、オフィスの壁にでもくっついて下に落ちない。
粘着性物質でもない限り考え難いが、事実張り付いてしまう。
いや、張り付くわけではないが、簡単に手に取ることはできる。
まったく説明できない。
正直、ウチじゃなくてもっとワケのわからんもの専門に扱う部署へ流したい。
まぁいい。
「とりあえずこれは置いておく。任せたフローは?」
「超常時におけるオフィス隔離のフローチャートですね。ちゃんと作ってますよ!」
「見せてみろ」
Nが作成したフローチャートをレビューしてゆく。
毎度こいつの仕事っぷりには隙がない。スキル的にはマネージャクラスに匹敵する。
「この、アジュレヌアーマというのは?」
「ハイ! 未知の地下生物ですね!」
なぜ未知の生物に名前がついているのか。
「流れ的に名前がないのは不便だったので仮置しています。一応凡例のところに注釈していますケド」
できの悪い怪獣映画の序盤か。
そもそも、未知のものに名前をつけること自体は心躍る部分があるのは否めない。
とくに承認欲求が高くなくとも、歴史に名を残せるとなれば鼻息の荒くなる輩も多くなるのは理解できる。
共感するつもりはないのだが。
アジュレヌアーマというワードは強すぎるが、無視してフローを最後まで確認する。
アジュレヌアーマ以外に指摘する箇所が見当たらない。
くだらない仕事だとは思うが、それでも真面目に制度の高い仕事として上げてくるNには好感を持てる。
「相変わらず丁寧な仕事だ。手直しなしで上に上げておく。ご苦労さん」
「ハイ! じゃあさっきの石を持ってアジュレヌアーマ探してきますね!」
こいつは職場をなんだと思っているんだ……
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