第17話 フィーリング・モーショングラフィックス・バカを見る・関ヶ原の戦い・包丁
「私って先輩とフィーリング合うと思うんですよね」
俺は絶句してしまった。
Nのように、混沌から生まれたような感性は持ち合わせていない俺と、どのあたりに一致性を見出せるというのか。
「あ! 恋愛感情的なアレじゃなくって、直感的というか感性というかそっち方面ですよ!」
返答に窮していると、俺が勘違いしないようにと勘違いして勝手に言い訳をしてきた。なお悪い。
「たとえばこのモーショングラフィックスを見てくださいよ!」
そう言いながらスマホの画面を見せてくる。
ありふれたクマのぬいぐるみが椅子に座っている画像だ。
画面中央のクマが回転して、背面が見えると、両手(前足か?)が後ろ手に縛られていた。
よく見れば、両足(後ろ足)も椅子の脚に縛り付けられている。
この時点でこれ以上見たくないのだが。
ちょうどクマが一回転して正面を向いたとき、ぬいぐるみの首が
全体的にはファンシーな雰囲気を残しているのが余計に
刎ねられた首が転がり、画面手前で止まった際に、つぶらな瞳がこちらを見つめてくる。
そこで企業のロゴが入って、モーショングラフィックスが終わる。
「どうですか先輩! 導入部分とか、めっちゃ可愛いですよね!」
「そんなワケあるか」
「えっ」
つい本音が漏れてしまったが、正常な感想だと思う。
無機物に身動き取れないように縛り付けられるさまを見て、可愛いという発想が出る時点で正常に狂っているし、よしんばその発想に至ったとしても、それを口外する次点で周りにどう見られるかを想像することができていない。
つまり、総合的に見てもやはり狂っている。
Nは仕事ができるのは間違いなく、見た目も良いのでよくモテる。
何度でも言うが、俺はそんなNに対して恋愛感情は持っていない。断言できる。
「じゃあじゃあ先輩! このクマを私に置き換えて想像してみてください!」
そんなことはしたくなかったのだが、ノータイムでNが嬉しそうに縛り付けられている絵が浮かんでしまった。
「先輩が想像した私、嬉しそうな顔してたでしょう?」
そう指摘された俺はゾッとして、なぜか関ヶ原の戦いで裏切られた石田三成を想像してしまった。
――いったい何に裏切られたのだというのか。
Nに包丁は持たせてはいけない。なぜならNはヤる側で、タガが外れれば危ないから。
そう思っていたのだが、さきほど俺が想像したのはヤられる側のNで、Nからもその指摘を受ける。顔に出ていたのだろうか?
いずれにせよ、若い娘が年上の異性に、縛り付けられているところを想像してみろ、というセリフを吐く時点で色々ダメだとは思うのだが。
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