第14話 大型バス・感情論・悪魔のキス・側頭葉・アルパカ
大型バスが右側車線を走っているのを見ると、どうしてもイラッとしてしまう人は少なからずいるだろう。
感情論になってしまうかもしれないが、当然大型バス側としても追い越し車線を走りたいこともある。
だが、バス停はそれなりの頻度で左車線に現れるので、でかい図体で行ったり来たりしてほしくないと思う気持ちはわかる。
なにを言っているかと言うと、今、他の車もいないのに、目の前で車線を行ったり来たりし続ける大型バスを見て、いらだちよりも不安が募っている。
「酔っ払っているのかなにか事件が起きているのか……まともな状態じゃないよな」
「ダンスしちゃってる感じですね!」
チラリと助手席に目をやると、前のバスにスマホのカメラを向けている。
「乗客は乗っていないように見えるが、回り込んでみるか……? いや、無理か」
すでにバスは車線変更というより、蛇行運転になっている。
「このままだとあのバス、ガードレールと口づけしちまうんじゃないか?」
「悪魔のキスですか!」
どこのローカルワードだ。昔そういうTVドラマはあったが、まったく関係ないだろう。
「そのスマホ、カメラの拡大機能が異常だから、なるべくバス社内の前の方を拡大してみてくれ」
「ハイ! っと、なにこれ? 動物かな?」
元気よく返事してきたNだが、頭上にハテナが浮かんでいる。
俺にも四足歩行の動物が、社内を駆けているのが見える。側頭葉が刺激されるが、完全には思い出せない。
乗客がいなくて幸いなのかもしれないが、運転手が危険な点は変わらない。
ブレーキを踏めばいいのだが、状況を見る限りは、運転手はパニック状態だろう。
「仕方ない。
Nがハテナを追加している。
「裏技だ。守秘義務が発生する。そのカメラで俺の顔とNの顔を一瞬でいいから撮れ」
「ハイ、撮りました」
「承認要求、E893203943KLE-PORIES999」
カメラの横のライトが黄色に明滅する。承認されたようだ。
Nの表情がコレでもかというくらい輝いている。まぁ気持ちはわからないでもない。
「あのバス全体が画面内に収まるように写真を撮れ」
「撮りました!」
即答するN。チラリと撮影した写真を確認。問題なさそうだ。
「その写真を破棄しろ」
「せっかく撮ったのに……ハイ、捨てました」
「停止しろ」
「何をですか?」
バスを見やると、急ブレーキが踏まれている。
無事にバスは止まれたようだ。なんだかわからなかった動物がよく見える。
Nも気づいたようだ。
「アルパカですね!」
そう。バス内にはなぜかアルパカ2頭が走り回っていた。
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