第13話 取扱説明書・セクハラ・米・理論値・ロゼワイン
「N、先日納品した陽炎発生機の取扱説明書、どう思う?」
「すみません。とりあえずやってみろ派なんでちょっとわからないですね!」
いるよなこういう奴。
俺も隅々までとは行かないが、気にはならないのだろうか。
「そう言えばこないだ、営業部の係長に聞かれたんですけど」
確か営業部の係長は俺より年上の、ザ・昭和な雰囲気の人だったな。突然退職されてしまったが、あまり惜しむ声は聞こえてこなかった。
「陽炎発生機の完成打ち上げでやたら私のこと聞いてきたんですよね。聞かれたいくつかのことにお答えしようと思ったら急に退職されてて、せっかく調べた答えがムダになっちゃったんですよ。時間かえせーって思います」
うちの場合給与の不満はありえないし、他にやりがいを求めた転職という風でもなかった。
――まさかとは思うがあの係長。
「ちなみに、差し障りなければどんなことを聞かれたのか教えてくれないか」
「エットですね。はじめて異性とデートしたのはいつだとか、キレイな足してるけどどんなケアしてるのだとかそんな感じでした。あとやたらとスキンシップが多めでしたね!」
完全なるセクハラだ。むしろ痴漢に近いのではないだろうか。言い訳のしようがない。
完全に
恐ろしい。
うちの場合、退職は珍しくない。給与がいいので、ある程度溜まったら夢の実現に向けて前向きな退職をする社員は多い。
去年退職した部下で、米が作りたいと言ってやめていった部下が居たが、本気で米が好きなやつだった。
旨味の理論値を科学的に分析し、最強の米を創ると言い放っていた。
今は品種改良に勤しんでいるようだ。
「ちなみに、はじめて男の人とデートしたのは17歳の夏休みでしたよ! どこまでヤッたかは秘密ですけどね!!」
俺が聞いたわけじゃないのでセーフ。ヤッたとか言わないで欲しい。
そもそも、なぜ男は女のはじめてが気になるのだろうか。
「ボディケアはまだ若さにかまけて何もやってないですね!」
自分で若さと言ってしまう迂闊さ。総務部のお局様に見咎められたら未来はないぞ。
「あ、でもでも! 最近は運動を良くしています! 狩猟解禁されたので!」
「猟銃免許を持っているのか」
狩猟は金がかかるし、若者が趣味でやるにはあまり似つかわしくない。
「いえいえ! わな猟免許ですよ! 猟銃だといただく感触が分かりづらいじゃないですか! あと弾代とかもかさみますし」
こいつ……
触れないほうがいい。これ以上踏み込んではいけない!
「捌きたてのジビエを刺し身にして、ロゼワインをキュッとヤルのがこの時期のトレンドです!」
誰が捌くのかは聞くまでもなかろう……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます