第12話 陽炎・知ったかぶり・同じ穴のむじな・ぬらりひょん・たずねる
「陽炎発生機の開発はどこまで進んでいる?」
開発チームにそう問うと、難航しているという回答の隙間で、無関係のNがつぶやいている。
「第18駆逐隊かな?」
もちろん第18駆逐隊ではない。
こちらの邪魔をする様子もなかったので、そのまま無視する。
金持ちの子供発信の依頼で、子供の手のひらサイズに収まる陽炎発生機を発注されていた。
当然子供が扱う物のため、絶対的な安全性が問われている。
陽炎の性質上、発熱かそれに類するエネルギーの移動が必要になるため、どうしても最後の一手で危険を取り除ききれない。
営業のクソ部長は、知ったかぶりで顧客に説明し、あとはうちの部署に丸投げするというなんとも営業らしい仕事っぷりだ。
件の部長は、「君たちなら簡単にできるだろう?」などとくさい息を吐いていたが、現象の再現と安全性の確保は、同居させることは難しい場合が多い。
畑違いも甚だしいため、そのあたりがわからないのはまぁ良いのだが、理解しようとしないその姿勢は毎度頭にくる。
同じように、営業の苦労を知らぬまま仕事をとってこいといううちの部長も同じ穴のムジナかもしれんが。
「むしろ私は摩利支天であることを願う……」
まだNがブツブツ言っている。
チラチラを構ってほしそうな視線に腹が立つ。
「化研の課長に話を通しておくから、冷却機能についてはそちらからアプローチしてみてくれ」
余裕で無視し、担当者にそう伝えて自分のデスクに戻る。
なぜかNがドヤ顔で俺のデスクに座っている。
お前は今年の新人だろうが。なぜ業務時間中に上司のデスクでドヤ顔ができるのか。
座席に部下が座っていたくらいで腹を立てたりはしないが、話しかけざるを得ない。
「俺のデスクでなにをしているんだ?」
「お話の流れから、自然現象の陽炎を発生させる機械を作成中と推察しました」
「推察もなにも、稼働中のプロジェクトについては部のタスクボードに載っているだろう」
質問に答えろよ。殴るぞ。
「つまり、陽炎の、かぎろいの正体は、ぬらりひょんだということですね!」
まったく意味がわからない。
むしろ、今のお前の一連の行動が化け物に見える。
「あ、先輩の席に座っていたのは、暇だったので偉い人の視点を感じてみたくて」
やっぱり殴ろう。
机越しにNの鼻先に掌底を入れる。腰のひねりを意識し、螺旋の衝撃が頭蓋を突き抜けるイメージで。Nは変な声を上げながら椅子ごと窓を割って地上に落ちていく。
「暇なら暇なりに仕事を探すか帰るなりしろ。周りに迷惑だ。そしてさっさとどけ」
責任ある社会人として、そんな暴力は振るえないので、脳内で処理しておく。
Nはつまらなそうな顔をして自席に戻っていった。
なにを期待していたんだろうか。
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