第11話 織物・掲示板・虫歯・カーゴカルト・自由奔放

「織物関連の輸出はどうなってる? 状況を報告してくれ」


 週イチの進捗報告会議で、関連業務の報告を受けていく。


 このIT社会において、いまだに対面で会議していることに疑問を覚える部下も多いが、俺はやはり顔を見ながら話がしたい。


 すでに古い人間になりつつあるのだろう。


「次に社内掲示板について」


「ハイ。それは私から」


 社内掲示板はN担当だ。これも導入当時は画期的だったが、社内SNSが主流の今では古臭さを否めない。


「調査結果としては、やっぱり『古臭い』『通知がメールで来るのが二度手間』『ムダに時間がかかる』など、否定的な意見が多かったです」


「まぁそうなるだろうとは思っていたが……仕方ない。上を説得するか」


 社内SNSを導入することによるコストは、なかなかバカにできない額の費用になる。


「社内プレゼンは引き続き担当のNがやれ。会社を変えろ」


 ちょっと格好をつけて仕事をNに丸投げする。


 社会人1年目の若者に振っていい仕事ではない。


 ハラスメントと取られそうな振り方だが、Nはプレゼンが得意で、この案件にも意欲が高い。しかも偉い人達のお気に入りだ。十分勝算はある。


「ハイ! ありがとうございます!!」


 目を輝かせながら良い返事。自信もあるのだろう。


 とまれ、聞きたい話は大体聞けた。全体的に順調だ。


「じゃあ今日の会議はここまで。皆よろしく頼む」


 そう締めて会議室を出ようとしたら、Nが呼び止めてきた。


「先輩、ちょっと良いですか?」


 上目遣いで、ズレた眼鏡の隙間から俺を見つめてくる。


 保護欲をかられる仕草が妙に腹立たしく、無性に殴りたくなる。


「虫歯の治療にカーゴカルトを利用した試みがあるって話知ってますか?」


 意味がわからない。


 そもそも虫歯の話題も唐突すぎるし、現代社会で病気と信仰を組み合わせるのはビジネスとして危険をはらむ。


 Nの自由奔放な思想はとんでもない利益を生む可能性もあるし、私見になるが、評価に加算したくはなる。


 なるのだが……彼女の場合は自由すぎてついていけない場合がほとんどだ。


「そもそも、虫歯って、神経の通った歯があるから痛いんですよ!」


 まさか……。


「つまり、歯さえなくせばもう痛くなりようがないじゃないですか! 全部叩き折ってやればいいんですよ!!」


 発想が狂っているのは相変わらずだった。


「極論すぎるだろうが。そもそもカーゴカルトとは絡んでないじゃないか」


「要するにカーゴカルトって、他力本願で利己的な願望ですよね!」


 セリフに気をつけろ。


「患者からすると、歯科医師さんは広義で神様みたいなものですよね。つまり、神様が持ってきた、いい感じに虫歯を解決してくれてかつ未来永劫虫歯にならない手段として提示するのが、鉛のハンマ「もういい」」


 手段に無理やり目的を充てたかのような会話だが、本格的に病んできたのだろうか……

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