第10話 シーザーサラダ・テレビショッピング・ドアストッパー・スピリタス・夏祭り
「シーザーサラダがカエサルの好物だって誰が言い出したんでしょうね?」
テレビショッピングのVTRチェックをしているNから、そんな疑問が提議された。
シーザーに掛けて誰かが言いだしたのだろうが、起源が2,000年少々ズレているので、少し考えれば気づくだろう誤りだ。
ただ、シーザードレッシングに使用されるロマーノチーズについては、時期も場所もカエサルに親しいのは皮肉だが。
シーザーな話を振りつつも、ユリウスな読みで切り出す、少しひねった物言いに、個人的に好感を得る。
だが油断してはいけない。こいつはNだ。
次の商品であるドアストッパーを両手でグニグニやってニヤついているような奴だ。
先週の部内での打ち上げで分かったことだが、Nは酒を飲んでもNだった。当然なのだが。
飲んだことがないと言っていたので、Nにスピリタスを飲ませてやったら泣いて喜んでいた。
ストレートでガンガン杯を重ねていたが、スピリタスはそうやって飲むものではない。
確かに後味は甘みを感じることも多いが、そもそも「ほぼ」アルコールという液体だ。
原産国では誰もストレートでは飲まない。水で割って飲むのが普通の酒だ。
罰ゲームにも使われると聞くが、オススメできない。
テキーラなどよりよっぽど凶器になる。
そんなスピリタスを、自らストレートであおるような狂った嗜好のやつとは飲みに行きたくないのだが、いかんせん最近の若者にしては珍しく、上司との飲み会に意気揚々とくるのがNくらいなので仕方ない。
たまに独りで飲みに行くのは構わないが、やはり酒は誰かと飲むほうが旨いし楽しい。
それがNという、猟奇的感性を持ち、非常識な思考の持ち主であっても、だ。
こちらも酔ってくると、そんなNのズレたポイントがいいスパイスとなって、程よく酒を楽しめるのは、悔しいが認めざるを得ない。
「聞いていますかー先輩ぃ?」
Nがこちらをみやりつつ口を尖らせる。童顔も相まって子供に見える。
「ユリウスの「その話はもういいです」」
ぶった切られた。確かに話は聞いていなかったが。
「今年の夏祭りで展示された私の作品ですよ! アレをCMに使わせてください!!」
視界に入っただけで呪われる安山岩の彫り物のことよな。教えておくか……。
「アレはもう処分したから社内にはないぞ」
「えっ? しょ……?」
「処分というか、加工出荷だな。もともと会社の資源だ。今頃は砂利に加工されてどこかに出荷されただろう」
「あーそうなんですね……残念です」
実はあの彫り物は準一級の呪物認定されたため、情報統制されて、由緒ある場所で供養された。本人に伝えられる予定はない。
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