第9話 エアバッグ・チアダンス・ツーアウト・青信号・背後霊
エアバッグの安全性と危険性について論議しているさなか、Nが上下ジャージ姿でチアダンスの練習をしている。
チアダンスと言えば、柔らかい体を売りにするような大きな開脚や、身の軽さを全面に推した大ジャンプ、バランス感覚を魅せる人間タワーなどがあるイメージだ。
Nの練習を見やると、まったく足は開いていない。
どうも体は硬いようだ。
「Nの体はツーアウトだな」
つい本音がポロリしてしまった。
Nがキッと俺を睨んでくる。
「今に見ておいてください!
あまり触ってはいけない話題だったようだ。
怒っているのがわかる。
「まぁ頑張れ。Nはそのままでいいから聞いておくこと。仕事の話だ」
俺はそう言ってNから目をそらし、会議スペースにいる部下たちへ話しかける。
「先週急遽追加された本社敷地内の青信号についてだ。どうもこれの動作がおかしいと報告が上がっている。詳細を教えてくれ」
ムダに広い本社の敷地には、社物の信号機がいくつも設置されている。
歩行者用に、感知式で灯火が切り替わる信号機を一部の場所に設置したのだが、これが誰もいなくても赤信号になっていることが多数報告されていて、自動車の利用者からクレームが来ている。ということだ。
センサーの故障だとは思うが、どういう状況でセンサーが誤作動しているのかを聞いておきたい。
部下たちから口々に報告が上がる。が、要領を得ない。
「あー。まとめると、歩行者が待っている場合は普通に動作する。歩行者が渡ったあとに、再度車道側の信号が青に変わった直後、また赤信号になってしまう、ということだろうか」
「付け加えると、車側の視界に誰も人がいない場合は、勝手に赤信号に変わったりはしないようです」
Nから補足。
ちゃんと聞いていたようで安心だ。
「じゃあイタチかなにかの小動物に反応したか?」
「私は背後霊説を推しますね!!」
誰もいないのに背後はないだろう。なんの背後だよ。とりあえずNは無視する。
「定点カメラを2、3日設置して様子見するしかないか。センサーのログも併せて入手しておいてくれ」
「背後霊ってなんだか意識しちゃいますよね。夜中のお風呂でシャンプーしたあととか、鏡に気配を感じます」
ほぼ心理的なものなのだろうが、たまにガチのやつもいるから注意だ。
霊に対しては意識しないことが一番の対処法。
意味不明なNも無視することが一番の対処法かもしれない。
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