第7話 平成・磨りガラス・安山岩・仮想世界・新郎新婦
平成も終わって、今は令和の時代だが、俺は昭和の生まれだ。
平成生まれの新入社員が入社してきたときに、なぜかショックをうけてしまったことのある昭和生まれは多いだろう。
俺もその一人ではあるが。
平成生まれの若者(と言っても平成初期に生まれた奴らはすでに中年に差し掛かっているが)からすれば、昭和の時代など磨りガラス越しに見た情景だとは思うが、過去には過去の良さがある。
懐古主義ではないのだが。
一心不乱に安山岩から黒雲母を削り出している平成中期生まれなNを見やると、死んだ魚の眼でなにかをブツブツつぶやいている。
「硬い……手が痛い……なんで私がこんな……ふふっ……ごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ」
……業務の一環とは言え、かれこれ6時間ほど安山岩と向き合っているNは、ちょっと堕ちそうになっているようにも見える。
確かにキツイ仕事ではあるが、いや、仕事という名の罰なわけなのだが、ちょっと不憫に思えてくる。
声をかけてみるか……。
「どうだN。今日中に終われそうか?」
無理と知りつつ訪ねてみる。
「あ、先輩。反省という意味でしたら終われそうです! でも作業という意味なら全く終わる気がしませんね!!」
うつろだった表情に生気が宿り、ズレていた焦点を合わせて俺を見てくる。
まぁそうだろうな。花崗岩200キロを彫刻刀一本で削り切るのは無理がある。
「見てください先輩。この形ティアンオンラインの中級鍋にそっくりです!」
そういいながら削り出した黒雲母を見せてくる。
ティアンオンラインは、少し前に流行ったMMORPGのひとつだ。
仮想現実で、野菜をモチーフにした種族をメイキングして気ままに遊ぶロールプレイングゲーム。
週に一度のレイド戦で、なぜか敵も味方もまとめてグラタンにされて最後は
Nは学生時代にのめり込んでいたらしく、かなりの有名プレーヤーだったようだ。
キャラ名は頑なに口をつぐんでいたが、なぜか俺はその話を聞いたとき、レイド戦でボスと戦わずにプレイヤーを食べまくる有名プレイヤーが居たことを思い出した。
「そういえばサービス終了祭りのときにリアル結婚した新郎新婦、どうなったんでしょうね……」
「俺の知り合いにも何組か居たが、半分以上離婚しているな」
「たった半年でですか……。若気の至り、というやつですねー」
若者のお前が言うか、と言いたいが、その意見には同意できる。
「私も精神的にはバツ2ですし」
えっ?
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