第3話 ゾウリムシ・おやすみなさい・オカリナ・和菓子・首都高速

 新人のNが、アクアリウムに入れる幼魚の餌として、ゾウリムシは良いと熱弁している。


「寝る前に1匹ずつおやすみなさいって言ってあげるんですよ♪」


「そ、そうか……」


 プランクトン類、結構な勢いで増えたと思うのだが。


 年頃の娘が、単細胞生物に夜な夜な挨拶しているところを想像して寒気が襲う。


 そもそも、愛着持って挨拶したとて、それらは魚の餌に使うのだよな……?


 嗜虐を感じてしまう。


 しかし業務に支障がないなら、プライベートには口出しすまい。


 決して深く知りたくないからというわけではない。


「そういえばオカリナ型の和菓子を作るプロジェクトはどうなんだ?」


「休憩時間にお仕事の話は辞めてくださいよぉ」


 おっと悪い癖が出てしまったようだ。


「吹口の強度が問題になっていて、ちょっと遅れ気味です。もう原初に戻ってガチョウ型のお菓子でも良いんじゃないって思うんですけど」


 嫌々ながらも答えてくれた。こういう部分に甘えてはいけないと反省しておく。


「ガチョウ? オカリナは笛だろう?」


「知らないんですかー? オカリナって、元々イタリア語の『oca《ガチョウ》』に小さいって意味の接尾後『-ina』をくっつけた造語なんですよ!」


 オカ・イナでオカィナ、オカリナ、か。


 人生においてあまり役には立たなさそうな知識を得てしまった。


「そういえばガチョウで思い出しましたけど、ガチョウと言えばフォアグラじゃないですか」


 すべてがそうとは限らないが、連想されるものではある。


「夏頃ニュースでやってた、首都高にフォアグラがぶち撒けられたニュースを思い出しました」


 あったなそう言えば。


 輸送トラックが横転して、首都高がフォアグラ色に染められた事故。


 不謹慎ながらも「勿体ない、ひとつくらいくれ」と思ったものだ。


「フォアグラって美味しいですよね!」


「Nはフォアグラ食ったことあるのか。若いのに羨ましい食生活だな」


「いえ、その事故のとき、ちょうど現場の下を歩いていて目の前にポロリしたんですよね」


「拾って食ったのか……」


「いえいえ、さすがに警察に届けましたよ! でもフォアグラのぬったり感を思い出してしまって、ちょうど初賞与も出たところでしたし、奮発しちゃいました」


 拾い食いでないと知ってホッとした。多分食ってたら軽犯罪だよな……?


「しかしアレって業務用の真空パックだっただろう? よくフォアグラだとわかったものだな」


「そこは鳥類の腑分けを日課にしていた私からすれば、ひと目でフォアグラと分かりましたね!」


 お前文学部だよな? どこで腑分けしてたの?

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