第2話 カーニバル・オーケストラ・レモネード・障害走・トライアスロン

 今日は比較的平和な日常を過ごしていた。


「先輩! 次の土曜日にカーニバルを見に行きましょう!」


 猟奇的な感性を持っているNが、事もあろうか休日の誘いを投げてきた。


 カーニバル? カーニ……カニバ……いや、これ以上はダメだ。


 ちょっと興味は湧いたが、俺は嫌な予感と先日のマカロニが頭をよぎり、決断した。


「次の土日は用事があって無理なんだ。悪いな」


 一応、相手を気遣った断り方で伝える。


「えー。さっきこの土日暇なんだってY先輩とお話してたじゃないですかー」


 耳ざとい。ごまかすしかない。


「大人には色々あるんだよ。色々とな……」


「オーケストラがカーニバルするんですよ! 迫力満点なんです!! あとレモネードが飲み放題ですね!!!」


 猟奇的ではなかったか……だが断ることに変わりはない。


「すまないがまたの機会に誘ってくれ。年の近いYでも誘っ「わかりました! Yさん土曜日オケニバル行きましょう!!」


 ゴリッとハイテンションに被せてきたが、なんとか俺の休日は平和が約束されたようだ。


 後輩Yよ、すまん。なんとか役得と思ってはくれないだろうか。


 Yの笑顔がひきつっている気もするが、見なかったことにしておく。



 Nの容姿は良い。


 確かに幼い印象はあるが、普通に可愛いとは思うし、よく喋り、気も利く。


 彼女にすることができれば、自慢の彼女と言えるだろう。


 だが、Nのプライベートが垣間見えるたびに、住む世界が違うと思い知らされるし、そもそも部下に手を付けたと噂を立てられるのも気を使う。


 先日も言ったとおり、Nは有能な正社員。


 下手に扱って辞められたら目も当てられない。


 環境も俺を躊躇させるのだ。


 そういった意味ではYを充てても同じなのだが。



 ただ、Nとのデート実体験を後輩のYから聞いた限り、色恋沙汰には多少遠そうだとは思う。


 NがYと遊びに行った話を聞くと、なぜか障害走が組み込まれたトライアスロンに強制参加させられたらしい。


 気楽にできるジョギングや、相互に楽しめるテニスなどとは異なり、自分との戦いに尽きるトライアスロンなど、下心込で遊んでいた若者にはなかなかの仕打ちである。


 一体どういう流れでそんな事になってしまったのかはまったくの不明だが、途中リタイアしたYをほったらかしにして、なんとNは完走したとのこと。


 ぱっと見は華奢で運動などしなさそうな感じだが、人は見た目によらないということだろう。


 いずれにせよ、俺は残りの仕事を片付けるために若者二人から目をそらした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る