俺とNとのランダムワードな日常

アサト夜

最初の15話

第1話 マカロニ・レッサーパンダ・新人研修・べっとり・質問箱

 マカロニサラダは好物のひとつだ。

 

 ヤツにはいい感じに穴が空いている。


 実に良い。


 この穴の向こうにはなにがあるのだろう? と、夢想しながらフォークで貫く瞬間がたまらなく好きだ。


 そんな悪癖を楽しんでいた俺に、差し向かいで飯を食う、新人研修中のNが話しかけてきた。


「先輩は、レッサーパンダ、好きですか?」


 唐突に過ぎる。


 Nはこの春から俺の部署に配属された新人で、清楚な感じの黒髪少女だ。


 いや、成人しているから少女ではないのだが、小柄なせいで幼く見える。


 本人もそれを自覚しているのか、伊達眼鏡で顔の幼さをごまかそうとしているのだが、その眼鏡は全然似合っていない。


 しかし、その幼気な見た目とは裏腹に、配属されて二ヶ月だが、Nは有能さを発揮しつつある。


 会社からは、大事に育てろと厳命されている。


 突然のレッサーパンダも無碍むげにはできないだろう。


「いや、とくには……」


「そう……ですか……」


 しょんぼりしてしまった。


 せっかく新人が話題を振ってきたのに、無残にも切り捨ててしまった俺はすぐさま反省し、慌ててNに問い返した。


「いや、悪い。興味は薄いにしろ答え方が悪かったな。で、レッサーパンダがどうしたんだ?」


「ハイ! キャラ弁に最近ハマっていて、レッサーパンダをお弁当で作ってみたんです! 見てください!」


 パッと表情を明るくし、スマホの写真を俺に見せてくる。



 その写真には、弁当箱に押し込められたレッサーパンダの頭が写っていた。


 顔ではなく頭だ。


 俺はパニックになりかけた。



 そのレッサーパンダはなぜか頭が割られていて、至るところに血糊のようなものがべっとりと塗りたくられていた。


 半開きになった口からはダラリと舌が垂れ下がっていて、そこに生命は感じられない。


 瞳から光は失われ、代わりに血塗られたマカロニが眼窩がんかから飛び出している。


 まるで、内部から脳漿がのうしょう飛び出しているがごとく。


 猟奇的過ぎる。



 よくよく見れば、割れた頭から覗くのは白米だし、口元から力なく垂れる舌は、赤黒く着色されたハムのようだった。


 血糊は梅肉ソースだという。


 Nとは仕事以外であまり話したことはなかったのだが、同僚が避け気味な理由を理解できた。

 

 こういった狂った趣味には巻き込まないで欲しい。



 その後、嬉しそうにスプラッタ弁当を語るNと、なにを話したかは覚えてない。


 俺は社内の匿名質問箱に、「同僚から異常者の片鱗を見せつけられた場合の対処法は?」という旨を書きなぐり、投函した。


 しばらくマカロニは食えそうにない……

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