第546話 クリームパン美味しい
カンっと環を打ち合わせる挨拶を交わせばトマリの人達は一気に好感度が上がるらしく、いろいろと気遣ってもらい、おすすめ店を教えてくれたり、今の見所を教えてくれたりで観光は充実しそうです。
ちょっと「観光?」と不思議そうに見つめられてからにこやかに教えてくれるというパターンでした。地元過ぎて観光地って思い浮かばない感じかなと思うネアですよ。
「冒険者も商人も基本は迷宮が吐き出すドロップ品目当てに移動するから観光地は迷宮になりがちだと思うな」
ガジェスくんが言いますが『環礁迷宮』は観光地としては不適切だと思いますよ!?
っていうか、迷宮は観光地なんですか? てっきり資源地だと思っていましたけど?
宿と屋台、食堂や迷宮素材を扱う商店は多めな『典型的な迷宮の町』とガジェスくんとアッファスお兄ちゃん、あとおっさんもおっしゃってます。いつまで同行ですか? おっさん。
「ん? ああ、見晴らしのいい岩場は足場にする岩の選別と重要でな。壊されても落ちられても困るから案内する。あ、そこのパン屋近所の嬢ちゃんがアマフワで美味いって強請られたことがある店だぞ」
「買ってあげたの?」
「一回だけな。すぐとけるし、腹持ちは悪いし高くてなぁ。二度目はないわ」
ガイド台詞を告げるおっさんを受け入れつつ、アッファスお兄ちゃんもパン屋さんに注目です。
美味しいけれど、高いんですね。
「エイルさん」
「よろしく」
アッファスお兄ちゃんがエイルさんを呼べばエイルさんはただよろしくといい、アッファスお兄ちゃんはそれを受け入れています。よくわからないですね。
アッファスお兄ちゃんがお店に消えて包み袋を持って出てきましたよ。あ。私頼んでないです。
「ネアの分はあるから。ガジェスは甘党だったろ。というかお子様の分は買った」
アッファスお兄ちゃんのお言葉にガジェスくんと私が「子供じゃない」を主張しておっさんを含む三人に笑われました。
町並みを構築する建物は薄く頼りなさそうな木造建築、迷宮素材なので意外と耐性があったりはするそうです。安定感を持てる太さ長さの木材は少し深めの下層階で採取されるとのことで、安かろう悪かろう壊れたら建て直すを前提に町の建物は建っているそうです。
だから安っぽく不安を誘いながらも統一感があるんですね。
流れる空気はどこかしおっぽく、踏み固められた地面にはうっすらとじゃりじゃりしていて、そう……転ぶとたぶん痛そうです。砂利を巻きこんでしまうようなすり傷が発生しそうだなと思うんですよ。
治療する前に『清浄』で異物除去してからの治療でなければならないやつですね。所持スキルによるでしょうけど。
時々渡してある板はその下に水路があるそうですところどころ、板がないのは筒状の物を地中に埋め込んでいるのだとか。ちょっと「へぇ」って感じです。
たまにスライムが詰まるそうですよ。
治安悪そうなうら寂れた雰囲気ながらも環が打ち合う挨拶の音が時折り聞こえてくるたぶん、生活する者には居心地のよい場所なんでしょうね。
そこに家族があれば、どこであれそれなりに幸せにはなれるものですから。
「明日は『環礁迷宮』に潜んのか?」
おっさんがアッファスお兄ちゃんに聞いていましたよ。
「必要なスキルギフトが入手できてないので、もう少し奥に潜っておこうとは思ってるかな。予定日は未定として」
そう、水中活動を行う為のスキルなりアイテムなりがまだ入手できてないんですよね。でも連続で死体迷宮はちょっとイヤかなぁと今日は観光なんですよね。
「今日はギルドの調査隊が入っていて俺らの仲間も案内に出てるから明日以降情報を得てからがいいんじゃねぇか?」
町はずれの屋台であたたかい飲み物を買って海へと続く岩場への道を歩きます。
「調査隊が調査にかかるのは今日だけですか?」
ガジェスくんがおっさんに聞いてます。
エイルさんは岩場の下を覗き込んで「ヒトの子は落ちたら大怪我ね」と呟いています。けっこう高い岩壁のむこうで水音が聞こえます。むこうは海ですか。
見えるものは壁ですよ!?
少し進むと岩壁に亀裂があり、そこからは障害物のない海原が広がっていました。
「うーみぃ!」
その海は『環礁迷宮』付近の陰鬱さとは大違いな薄鈍色な空にどこか蕩けた金属のようにも見える海です。
大烏賊が触腕を奮う白波をたてる大海原ではありませんが海って広さです。
吹きつける風の冷たさに身を震わせればアッファスお兄ちゃんがあたたかい飲み物を差し出してくれます。お供にパンも。
薄いパン生地はパン生地というよりさくふわパイ生地。中にはしっかりと冷やした甘くとろける物が詰まっています。
「なにコレ、すぐなくなる。ひどいぃ」
おいしいのに秒で消えるのひどいです。
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