第544話 散策するんですよ

『潮騒の国』の王都は街道的には次の街、高台ちょい内陸でみっつの迷宮入り口の真ん中にあるそうです。『潮騒の国』の入り口であるこの町の名前は『三叉路の町トマリ』というらしいです。ガジェスくんが「説明したよね」と渋い顔してました。

「忘れました」

 キッパリ答えたネアですよ。ごめんネ。

 三叉路の由来は『草原の国』への街道と王都への街道とついでに『失迷の国』……今は『蔓葉の国』と呼ばれるアドレンスへの街道があるからです。

 目立つ迷宮は『蒼鱗樹海』だけであとは秘匿迷惑と化している現状ですから『蒼鱗樹海』由来の呼び名がついたようです。

 とりあえず拠点の話題は傍に置いておいて、この町トマリは『環礁迷宮』という死霊系お腐れ迷宮と丘という名の崖上の王都の下にある『壊幻夢泡』というみょーな名前の食材資材迷宮への入り口のある町というわけなんですよね。

 ちなみに海が荒れると『壊幻夢泡』は入り口封鎖状態だそうです。(アッファスお兄ちゃん調べ)魔物を間引いている限りは滅多に海が荒れることもないそうですが。

 カンカンカツンと硬いものが打ち合う音と人が会話する町中の賑やかさがちょっとドキドキしますね。冒険者ギルド近辺には屋台も商店も多くて目移りします。

 ざらりと踏み固められた大通り。周囲の建物は基本平屋な灰色の木造建築。見るからに隙間風等が気になりますがそれは藁や布を内側にあてがうことで風や寒さを防ぐそうです。

 冒険者ギルドと商業ギルドのスキルギフト販売所に使えるスキルが無いか確認しにきたんですよ。ついでに町の観光をするんですよ。

 観るものなんかないと断じるエイルさんは地上人の居住区に興味がないんでしょうと訴えたらあっさり「当然」と返ってきましたからね。

 もちろん、一人でも大丈夫ですともと宣言したらアッファスお兄ちゃんとガジェスくんにダメ出しされたので四人で行動中ですよ。

 ちょっとひとりで散策するくらいいいじゃないですか。

 一歩踏み出して周囲を見回せば、一瞬会話が途切れた気がしますよ?

 まさかね?

「よーぉ! 嬢ちゃん」

 いきなりおっさんに声をかけられて振り返れば片手をあげた昨日のおっさんパーティメンバーのひとりが立っていましたよ。

「あ、昨日ぶりですね」

 そのままあげている手に手を重ねようとしたら、軽やかな動きで手を掴まれましたよ。

 おっさんなんのつもりですか?

「嬢ちゃんは手首になんのカンもつけてないのか」

 カン?

「あー、そっかそっか。ヨソモンだもんな。わりぃわりぃ」

「感じ悪いんですけど? カンってなんですか?」

「ちょいと待ってな」

 おっさん、説明せずに露店のおっさんと手首を合わせて商談に入ってますよ。

 さっきからカンカンいってたのは手首にはめられた飾り物がぶつかっている音だったみたいです。

 よく見ればおっさんもお店の人も歩いている人も結構な割合で腕輪をしているようです。

 おっさんの腕輪は昨日ドロップした手甲ですが。

 あー。

 つまりカン。環ですか。

「ほら、こいつを腕に巻いて……なんか巻いちゃならない戒律とかは?」

 今、聞きますか。

 苦笑がもれてしまいますよ。

「特にはありません」

 むしろ、なにか妙な意味でも含まれているのかこちらが聞くべきでは?

 巻いてくれている飾りは特に細工もない平らな腕輪です。平たい紐状の物を手首に巻いた感じですね。

 満足そうなおっさんがあらためて自分の手甲と私の腕輪をカチンと少しの勢いをつけて合わせてきましたよ。

「おう! 嬢ちゃんのおかげで稼げたわ! ありがとよ!」

 元々の所持品は全部燃えたのは別に良かったんですね。おっさん。

「あー、これも悪かないが、やっぱ自分の環がいいな」

 不満そうに手甲を撫でていますけどね。

「カンってなんですか?」

 聞いているんですけど!?

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