第543話 明日は観光日です
「え。観光? ここ迷宮があるから辛うじてさかえている海岸沿いの田舎町ですよ?」
棘がありませんか? ガジェスくん。
「トルファームの方が栄えてますし」
草原の国のトルファームには、現在迷宮ありますし、ウチの迷宮国家も近いですからね。
そうじゃないんですよ。
「その地域地方の特色を見て歩きたいんです」
同じ場所はないんですから。
「ただのこっぱ港町よ? 活気もないし」
エイルさんまでぇえ!
ネアの観光気分を挫きにくるのはなぜなんですか?
て言うか。
「こっぱ?」
「とるに足らない、使えないってこと。枝を払い落とした後に落ちこぼれた小さな木屑なんて拾い集めないでしょ?」
それは土に紛れますからね。
「迷宮と人の集団との関係性も影響するけれど、この国は迷宮を持ちながらも集落に毛の生えたような発展しかしていない時点で知れたモノ」
えー。
さすがに表現酷くないですか?
「あら。失迷の国は迷宮さえ得れば発展したでしょ」
エイルさんがガジェスくんとアッファスお兄ちゃんが買ってきた夕食用屋台飯に手を伸ばしながら小さく笑いましたよ。
芋のスープと魚肉を潰して丸めて焼いたグナと呼ばれるモノです。グナは海岸沿いの町ではよくあるおかずで町や屋台によって味が違っているそうです。
食べ比べ散策とかしたくなりますね。
食後に干した果物の細切りを齧っての夕食でした。
「食を楽しむにはゆとりも必要だから」
ガジェスくんが苦笑いしながら、おそらく不満顔をしていた私に声をかけてきますよ。
そりゃ『環礁迷宮』ではほとんど食材はドロップしませんでしたし。燻製魚とかはドロップしたので確保したんですが誰も食材としては見てくれませんでしたね。
炙ればいいんでしょうか?
一応『食品』とは出てるのですが匂いがですね。みなさん拒否感があるらしく安全区画で焼こうとしては反対されました。エイルさんは適当に引き裂いて齧ってらっしゃいましたが。
焼いたり、スープに突っ込むとひどい匂いがより発生するそうです。
「ティクサーだって貧しかったし、岩山の国の『石膏瓦解』のある町だって貧しかったけど、それなりの活気はあったと思う」
主に老人が。
あの町は女はひとり歩きできないってタガネさんが言ってたけど、え。ここも同じ感じ?
「クルセトの町ほど治安が悪いわけじゃないけど、海岸沿いの冒険者は荒いのが多いからね。見慣れない人間を見かけると絡んでくる連中も多い。エイルさん、引きちぎられた燻製魚の匂いがキツいです」
「そお? 骨まで食べれるし、あんまり気にならないんだけど」
残りをぺろりと口の中に放り込みさっさと周囲を『消臭』するエイルさんです。
気になるんですが、確かに引き裂き時の匂いはかなりキツいんですよね。なんというか、ツンと鼻の奥に響くというか、傷んだような甘いようななまぐさいような表現し難い匂いなんですよね。
「つまり、期待するようなはなやかな港町ではないということですね?」
つまり、どちらかと言えば寂れた漁村だと。
アッファスお兄ちゃんとガジェスくんが視線を交わし合いつつ『どうだろう?』という感じですね。
二人とも宿泊部屋に夕食を持ってきたということは私やエイルさんを食堂から切りはなした訳ですよ。
戸を開けた時に下の食堂兼酒場から賑やかな喧騒が聞こえてましたからね。
別に私、噛みついたりしませんけど?
「食事は静かに食べたいものね」
エイルさん、それ関係なくないですか?
「少なくとも屋台はあるんですから、明日は観光したいです」
迷宮に潜るのはその翌日でいいじゃないですか。あと、売っているのなら購入可能スキルリストも確認したいですよね。みなぞこの国にたどり着く為にも。
ところでクルセトってどこの町の名前ですか?
ん?
あれ、そーいえば、ここの町の名前聞きましたっけ?
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