第535話 海ですよ
「ふぁあああ! 海です!」
宿に荷物を置き、ガジェスくんは冒険者ギルドに情報収集にアッファスお兄ちゃんは私とエイルさんについて桟橋にきています。
ええ。
今、ネアはネアになってはじめて迷宮内以外の海を見ていますよ。
だって、迷宮内だと海だろうが樹氷地帯だろうがなにがきても違和感ないですしね。実際地上の海って特別感がありますね。
古びた木組みの桟橋にはロープで繋がれた舟が何艘か揺れています。大きな舟は無いようでこの潮騒の国のこの町には外洋に向かう港機能はないんでしょう。
「大陸の外にはみなぞこの国があるだけで他に大陸や人の住む地は認められていないのよ」
エイルさんが古びた木の耐久性を試すようにつま先に力を込めているようです。ギュッギュッギチギシと不安にかられる音が繰り返される波の音に紛れて異音さを際立てています。
「この桟橋の先に『環礁迷宮』があるわ。記憶では十五階層までの小規模迷宮で水中行動補助アイテムがドロップしやすかったはず。迷宮改定されてなければね」
迷宮に迷宮って呼び名がついてるんですね。
「基本的に死霊系迷宮ではあるわね」
えー。
死霊系ってうごく屍体はちょっとなぁ。
「イヤそうな顔ね。『清浄』や『浄化』があれば楽でしょうに。ネアは『清浄』も『浄化』も使えるんじゃないの?」
「じょうか、じょうかは使えるんですけど……ね」
なぜか火が出るんですよねぇ私のじょうかはどうやら『浄火』らしくって使う場所というか環境を選ぶというか。扱いが難しい感じですね。
「なら問題……、まって『けど』ってどういう事?」
「あ、生きているものは大丈夫ですよ。でもちょっと思わぬ被害も出るっていうか扱い難いんですよね。精密操作の問題だとはわかっているんですけど難しいですよね」
「えへへじゃないわよ。生きているものは大丈夫って大丈夫じゃない生きていないものはなんなの?」
えーっと。
「植物は大丈夫です。あ、瘴気を含んだ枯れ木は燃えました。あと死体は灰をひとつかみ遺して燃え尽きましたよ」
ぽんとアッファスお兄ちゃんに肩を叩かれて見上げればにっこり笑ってくれますよ。
「使うのは『清浄』にしておこうね。装備品が燃えたり他の冒険者が巻き込まれてしまうと面倒なことになるからね」
アッファスお兄ちゃんがそう言うんならきっとそうなんでしょう。
「使用は『清浄』だけにしておきますね」
「ああ。基本はおれとガジェス、後詰めにエイル。保険にネアのつもりで動いてくれればいいかな。採取、したいだろう?」
なんか、なにもするなって言われているような気がしますよ?
「ネアは薬草採集人を目指していただろう?」
え。
あ、はい。その通りです。
え。
アッファスお兄ちゃん覚えていてくれたんだ?
「うん」
あー。
うれしいんですけど!?
「『環礁迷宮』はかなり人気のない迷宮で間引き要員が一期に一度くらい派遣される程度らしいから国外冒険者でも探索許可がおりやすいって聞いてる」
細かい情報はガジェスくんが拾ってくるだろうとのことですがそのへんの屋台の人達からも集めることができる情報だそうです。
「食材はあまり落ちないらしいよ」
えー。
食べ物落ちないんですかー?
「ネア、露骨にがっかりしないでくれないか? もしかしたらなにかあるかもだろう?」
あまり、あまりですものね。ちょっとは食べられるものが出るんですよね。
例えばイカとかタコとか。ナマコとかはどうなんでしょうか?
……『清浄』含ませた『水』を使って討伐したら普段と違うドロップとかないですかね?
「なにを考えたのかわからないけれど、素材や食材迷宮は他にあるからだからね。ネア、水中移動を楽にするためのギフトスキルやドロップ武器が手に入りやすいからだからね。資金はあるとはいえ、足もと見られるのは困るだろう?」
「武器?」
「そう。水中で不具合なく扱える武器はあった方がいいからね」
あー。
それはそうですね。
「水中では地上とはスキル効果も違うからね」
エイルさんも補足ですね。
やっぱり潮風や海水で装備、傷みやすくなるんでしょうか?
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