第531話 安全区画でぐーたら

 ぐたりとつぶれているガジェスくんに冷風を送っているネアです。『回遊海原』二十階層の安全区画です。おっさまーずは行動が無茶がすぎると思います。

「あー、ウェイカーなら平気なんだろうなぁ」

 ぐったりとだれた様子でガジェスくんがこぼします。

 十六階層で時々魔物殴りに参加したりはしていましたが十八階層からは本当についてくるだけで精いっぱい。迷宮からの魔力圧と自身の魔力を拮抗させることでなんとか足を動かしているような状態でした。

 強い魔物が蠢く場所は魔力濃度が濃いものですからね。

 ティカちゃんもよくワンフロア焼却後には魔力酔い起こしてましたからね。ちゃんと覚えていますとも。

 おっさまーずはぐったりしたガジェスくんの様子を見ながら「慣れよ慣れ」と笑っていましたよ。

 ところでタタンさんとゲオルグさんとどーやって合流するんですか?

 ゲオルグさんが使える転移陣十五階層だったと記憶しているんですが?

「ゲオルグとタタンと合流できればワシらは帰る」

「待て。宿の料理を二日あけることは許されんぞ」

「うむ。これまで怠けていたゲオルグが悪いな」

 ……。

「十五階層で待っているべきだったのでは?」

 おじさま方。

 だって、ガジェスくんも魔力圧になれる前に強行軍で来たから魔力調整異常起こしてますよね?

「落ち着いたら二十階層で訓練できるようになる方がいいからなぁ。体験しておくということは大事なんだよ」

 目ぇ逸らしながらおっしゃらないでください。説得力がお留守ですよ?

 おっさまーずはそっと視線をはずしつつ、好き勝手に安全区画から出て狩りのようです。私はガジェスくんの様子をみているので安全区画におりますよ。

 迷宮魔力圧が個人の魔力維持力を越えると回復機能のある安全区画といえど、魔力枯渇に繋がることになります。

「学都では迷宮潜ってたんですよね?」

「あー、えーっとね、学都では迷宮への挑戦は基本事前申請を求められるんだよ。『初回は五階層までで』とか『迷宮核の間を目指してくださいね』とかその時に忠告を貰えるんだよ。姫さまとウェイカー、幼馴染みは『迷宮核の間に挑戦してみて』ってよく言われてたっけ。……足を引っ張ってばかりだったんだ」

 んー、つまりアトマちゃんとウェイカーくんが無制限いってらっしゃいって感じのところにガジェスくんは五階層で一度戻りましょうって提案されてたって感じですか?

 迷宮探索は一番戦闘力の低い者に合わせるべきと言われていますからねぇ。

 あー。

 つまり。

「外野に足手まといとでも言われましたか?」

 あ、余力ありそうなら不味い飴玉でも食べさせましょうか。魔力飴ですよ。魔力飴。ちなみに魔力回復ポーションはなぜか魔力酔いには効かないんですよね。

「はは、やっぱりわかるよね。幼馴染みも姫さまもぼくに合わせてくれるから探索は奥にまで行けなくてだからってたまに外れて好きにいってもらえば、実力にまた差が開いて足手まといにしかなれないんだよね」

 ものすごく落ち込んで自虐にはしってますね。

 ネアなんかはガジェスくんはいい普通の指標になってると思うんですけどね。

 身近が高能力者に囲まれているとあたりまえの基準が高過ぎて反感を買いやすいでしょうし、それでいてなかなか自覚できなかったりするので。

 気遣うという行動がアトマちゃんはともかくウェイカーくんはとても低い気がしてるんですよね。明るくてヒト懐っこいですし概ね親切なんですが彼が『できないこと』を、『誰かのあたりまえ』を受け入れることができるのは容赦なくツッコむグウェンさんとガジェスくんがいるからだと思うんですね。

 ウェイカーくんはひとの話聞くの苦手そうなタイプに見えますし、雰囲気で押しきる感じも持っていたと思います。

 いわゆる『幼馴染みの意見』は特別なわけですが、コレ、ガジェスくんは気がついていない系ですね。

 だってネアが十歳の頃からグウェンさんの話は聞き流してもガジェスくんの意見はそれなりに聞いてたと思うんですよね。

 あ。

 ティカちゃんに会いたいなぁ。




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