第526話 実働員と事務員

 朝食準備中にゲオルグさんとタタンさんを迎えたネアとガジェスくんですよ。

 朝ごはん増量が必要かと思ったらガジェスくんは既に計算済みだったようです。

「今日はできれば二十階層に着きたいですね。せめて十五階層の転移陣をひらきましょうね」

 朝食を食べながらタタンさんが今日の予定を発表します。

 昨日はとりあえず五階層と十階層転移陣をひらいたので次からは十階層スタートが可能なわけですね。この仕組みは便利だと思います。あと各階層にふたつぐらいは一階層に一方通行な転移陣があるそうです。緊急避難用ですかね。

「無茶振りしてんじゃねぇよ。俺の適正階層は十三階層までだっつーの」

「手を抜いているからでしょう? 補助しますから戦力上げてください」

「俺は! 水組合でも忙しいんだよ!」

「事務仕事は半分商業ギルドに投げてるんですからこちらからの要望にも応えてもらわないと」

「っく! 事務仕事なら今後ガジェスもいるぞ」

 いきなり名前を出されたガジェスくんがぎょっとした表情で顔を上げましたよ。消化に良くなさそうですね。

「水組合の組合員にもなれないガジェスにですか?」

「じ、事務員は別に『水』を使えなくても問題ないだろ?」

「水組合で鬱屈する仕事をするしかないというなら役場や商業ギルドの事務方作業を斡旋しますよ。彼なら王宮付きの迷宮関連事務官にも斡旋できますしね」

 あ。食べる手が完全に止まった。

 これ情報からの食欲失せ事案だ。きっと。

 事務作業を鬱屈する仕事と言っている? それとも他に要因? 他の要因ですね。他所の事務仕事斡旋してらっしゃいますし。……そういえば、タタンさん事務員さんでしたね。事務員も戦えろって地味に難易度高くないですか? いえ、ちょっと待ってください。ティクサーで受付嬢になったティカちゃんのお姉さんもさらっと『蒼鱗樹海』の二階層に散歩に行くことがあると聞きます。事務員さんの必要能力に戦力は含まれているんですね。なるほどです。

「あ、ガジェス。ちゃんと朝飯は食っとけよ。次の安全区画で落ち着いて飯食えるかわからんからな」

「どんな環境でも食べられる時にしっかり美味しく食べることとしっかり眠ることは大事ですからね」

 揃って突っ込まれるとガジェスくん、立場ないのでは?

「あと、ネアさんはなにに納得してらっしゃるんです?」

 タタンさんの矛先がこっち向きましたよ。

「事務員さんは戦闘力も必須なんだなぁと納得を」

 ええ。してました。

「そんなわけないでしょう。通常事務員には潰れない体力は求められますが、戦力は不要です。正しく文字が書けて規律が守れる事、業務を遅延させないことこそが重要です」

 速攻否定されましたよ?

 え。違ったんですか?

 おかしい。

「非常時には回復薬でせめて五徹くらい堪えれられる体力は欲しいですが。実務戦闘力は求められておりませんよ」

 求められていないだけで体力作りに持っちゃうヤツですか? もしかして。

「え。事務員なんで徹夜なんだよ」

 ドン引きゲオルグさんの発言にギッと殺気混じりで睨むタタンさんですよ。

 たぶん、皺寄せ引き受けて大変なのでは?

「わぁ。この朝ごはんスープほんとにおいしいですね。ガジェスくんに感謝ですよ」

 ごはん作り上手な人っていいですよね。

「水組合では『水』のスキルを持っていない者を少々邪険に扱う悪癖があるんですよ。まぁ各専門組合で関連スキルを所持しない者に優越感を持っているのは普通のことですしね。通常自分たちのできない作業を行う人材は重宝されるのですが、ガジェスはゲオルグの弟ですからね。どうしても縁故雇用からの不信感がマシマシになるんですよ。なら自分たちで問題なく事務作業しろって感じですが」

 タタンさん、長文を言い捨ててため息ですよ。ゲオルグさんは視線逸らしてますよ。自覚あるんですね。

「僕は水のスキルと相性が悪いみたいで関連ギフトを手に入れても回数使えるだけなんだよね」

 つまり、身につかないということらしいです。

 属性相性って大変なんですね。

「水は使えなくても風は使えますし、読み書き計算事務作業もできますし、向上心もあってガジェスは優秀ですよ。水組合に身を沈める必要はないと思います」

 タタンさん、言い方がひどいですよね?

「弟に仕事を斡旋しようとした俺が悪いのかよ!?」





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