第525話 ヒトの恋バナは楽しいです
待ち合わせの十階層休憩所に着いたのはおそらく夜半だと思う頃合いでした。
その間にすれ違ったり、挨拶を交わした冒険パーティは五パーティでした。意外に会いませんね。探検者少ないです?
「直行コースを選んでるから。それぞれの階層には狩り場が何ヶ所かあるからバラけるかな。休憩所も広めの場所が人気だし」
ガジェスくんが軽く説明してくれます。
無人の休憩所ですが、他のパーティが来ないとも言い切れないので『清浄』ブチかけてからかまど近くの壁際を確保ですよ。購入品を食べるかドロップ品を調理するかでネア、ガジェスくんと相談ですよ。
ガジェスくんが「水を用意してくれたら『回遊海原』定番の迷宮飯作るよ」と言ってくれたのでお水だけ出してお任せしましたよ。
水系のスキルとは相性が悪いと語るガジェスくんは風系のスキルと相性が良いので攻撃力は高めだそうです。
てっきり補助防御系に成長するのかと思っていました。
アトマちゃんはちゃんと三人ともを重用していたように思いますしね。
回復補助のグウェンさん。
物理攻撃のウェイカーくん。
雑務補助のイメージが強いガジェスくん。
ウェイカーくんの暴走をグウェンさんが止める方に動くからガジェスくんはそれをフォローしていたと思います。
トラップ解除とか罠探知とかを学んでると学都でアトマちゃんが言っていたような気がします。ネアとは接触少なかったですからね。直接は知らないんですよね。
ささやかな雑談をしながらサンダルクラブの塩焼きや唐黍とウサギ肉の火塩草スープが出来上がっていくのを見守りますよ。
茹で上げた唐黍をスープの中に削ぎ落としていくのもなんの実もついていない芯の部分をまるままスープに沈めるのも不思議です。
ウサギ肉は香草と和えて別の鉄板で焼いてからスープに肉汁ごと投入していました。美味しそうです。
「ガジェスくんは、お料理上手なんですねぇ」
とても手ぎわがいいんだと思います。
「まぁ、できることは多い方がいいからね。攻撃スキルはいくらか使えるけど、攻撃者として使えるかと言われれば、僕は中の下でね。確かに底辺ではないけれど、上にはたくさんいるから、自分のできることをうまく使えるようにならないといけないんだ」
「お料理もその一環ですか?」
鍋につっこんだヘラの握りをゆっくり動かしながらガジェスくんは頷きます。
「もう少し、冒険者として経験は積むつもりだけど、僕は冒険者として大成できるとは思ってないし、冒険者経験で兵士に就職できるかといえば、ちょっと難しいかと思っててね。でも、戦闘主体じゃない役職としての就職先なら増やせるかもしれないしさ」
弟妹が学都を目指すなら学費を融資できるくらいには自立していたいらしいです。
「いずれ自分の子供が学都行くと言った時に準備できるようにですね」と言えば、驚いたように瞬きを繰り返していましたよ。
なぜに?
「あー、そっか。僕の子か……。あー、なんていうか、ソレ、全然考えてなかったや。まず、相手がいない」
かろやかにひと笑いした後、ガジェスくんひとりで落ち込みましたよ。
「す、好きな人とかもいないんですか?」
ガジェスくん、ネアより年上ですからね。
きっと経験豊富とはいえずともひとり、ふたりは?
あ。
もしや無意識にグウェンさんがお好きだとか?
いえ、記憶が正しければグウェンさんが好きなのはウェイカーくん。当時、ウェイカーくんは恋愛機微より冒険に夢中な男の子だったと記憶していますよ。
はっきり言えばガジェスくんの方が要領良さそうと思っていますよ?
え。
そんなことない感じですか?
「幼馴染みが」
「幼馴染みが?」
「恋愛矢印拗らせててさ」
「レンアイヤジルシ」
「パーティ内ではやめてほしいよな。無自覚にまわり振り回す系でさ。どっちかとしっかりくっつけよって思ってたんだけど、むしろ、僕がいなければ丸くおさまるんじゃないかと思って先に故郷に戻ったんだよなぁ。……恋愛って疲れると思うんだ」
えっと、その。
「オツカレサマです」
「うん。ありがとう。だから、自分が誰かと一緒になるとかあんまり考えれなくってさ。僕が好きになれるヒトかぁ。なんかハンパに基準値高くなってそうでこわいな」
苦笑いするガジェスくんはたぶん、知り合えばモテると思うんですけどね。
「ま、イイヒト止まりなんじゃないかな。近所の親切なおじさん目指そうかなぁ」
あー、ソレはソレでモテそうですよね。
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