第524話 『回遊海原』お久しぶり

 昼前に『回遊海原』にたどりついたネアですが、タタンさんとゲオルグさんは見当たりませんね。と周囲を見回してみます。

「十階層の休憩所で待ち合わせになってます。いきましょう。ネアリーさん」

 ガジェスくんに促されるまま迷宮の入り口で受付を済ませ、一階層から迷宮入りです。

 階層転送を使えるタタンさんは後からの合流で事足りるということなんでしょう。

「タタンさんも兄さんもギルドの日常業務をあまりあけられないらしくて。人材育成がまだまだで」

 苦笑いをこぼすガジェスくんですよ。

「ガジェスさんはお手伝いしていないんですか?」

「僕が手伝えることはほんの少しだけなんですよ。水系のスキルは兄さんの足元にも及ばないし、適性がないわけではないんですが、高いわけでもなくて」

 一階層、二階層と通り抜けながら雑談です。

 クサハラビットやクサカリザードがちょろちょろと逃げていくのはおもしろいと思います。

 記憶より少し広いような気がするのは拡張されているのか、もともと隠蔽されていたのかは悩ましいですね。

 あと、休憩所がとても散らかってますよ。

『清浄』

 ふわりと優しい風が吹いて休憩所が多少綺麗になります。

 二階層内の休憩所までは結構綺麗清潔だったんですが、三階層に入るとイマイチになってますよ?

「二階層までは『清浄』維持クエストをしている見習いや新入りが多いから」

 そんなふうにガジェスさんが説明してくれます。三階層からは手が回らないのか少ないそうです。

「その足元のロープは靴底の泥落とし用。壁のは装備についた泥や塩をこそぎ落とす用だよ」

 ええ、こう、全体的に汚れています。

 火を焚けるように設えてある場所では薪や屋台の串焼きの串が燃え尽きそびれた残骸も散らばっています。潰れたのであろう装備も置き去りのようでごちゃっとしています。灰の中に革紐の残骸とかも見えますしね。耐火耐燃処理されたものを燃やしてしまおうとしたのでしょうか?

 ガジェスくんの『清浄』で少しは綺麗になりましたが、不快感はまだあります。言うなれば血臭や腐臭が薄れて汗臭さが漂う程度になった感じでしょうか?

 他にはこの休憩所を利用している冒険者の方は現在おられないようですし、この環境でお昼をいただくのは遠慮したい。むしろ、外で食べる方が快適な気すらするので。

「もう少し綺麗にしますね」


『清浄』


 魔力の回復速度増進効果が発動しましたね。

 ほんと休憩所は綺麗に使って欲しいものですよね。

「さ、食べて次の休憩所目指しましょう。……ガジェスくん?」

 ガジェスくんがなんというかもの言いたげな、それでいて言い出しにくげという微妙な表情で私を見てらっしゃいますよ。

 気がついてないことにした方がいいですか?

「サンダルクラブのパイとサンダルクラブのパイ、どちらがいいですか?」

 ちなみに買った店は違いますよ?

「白ソースと黒ソースだそうですよ?」

「……唐黍とスグリ。一般的に唐黍が主食系でスグリはおやつ系ですよ。僕は地元民ですからね。ネアリーさんがまず決めましょう?」

 白ソースは唐黍で黒ソースはスグリ……、おやつ系ということは甘いソースなんですね。たぶん。

「まぁ、辛いソースだったら忠告するけど」

 苦笑いで昨夜の失態を思い出させられますよ。恥ずかしいですが、あれはあのゲオルグさんが悪いんですよ。ええ。たぶん。

 綺麗になった場所でふたつのパイを結局半分に割って主食にデザート付きでいただきましたよ。

 サンダルクラブの味は唐黍の甘さともスグリの甘さとも喧嘩をしない美味しさでした。

 むしろ。

「黒ソースの方サンダルクラブの食感があまりわかりませんね」

「スグリの糖蜜煮だけだと甘過ぎるからサンダルクラブの足肉を細かくほぐして塩味を効かせているってことらしいよ? スグリは疲労回復に効果が高いんだ」

 だから人気商品でもあるそうです。

 パン屋の店員さん、確かに「迷宮行くんならお供えにもおやつにもいい黒ソースはひとつは買っていきな」とオススメでしたね。

「お供えにもいいとかお店の人が言ってましたね」

「ああ、五階層のフロアボスと戦いたくなければ『お供え物』で五階層は通してくれるんだよ。他の階層にとべる転移陣で帰してくれるんだ。あ、一回は攻略パーティにいなきゃいけないけどね」

 二回目以降は条件次第でスキップ出来るというわけですか。なるほど?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る